INTERPRETATION

Vol.70 「通訳は天職」

ハイキャリア編集部

通訳者インタビュー

【プロフィール】
青木 絢 Aya Aoki
幼少期はアメリカで過ごされ、慶応義塾大学ご卒業後、化粧品会社、ホテル関連会社、飲料メーカーでのインハウス時代を経て、フリーランスとして多岐にわたる分野にてご活躍中。
テンナインとは長くお付き合いいただいており、今回、念願のハイキャリアインタビューの機会をいただきました。

Q1. 語学に興味を持たれたきっかけをお伺い出来ますか?
サラリーマンの父の背中を見て育った私は自分自身の性格を客観的に見て、組織の中で働くタイプではないと幼いながらに自覚がありました。だったら専門職の中で、自分のスキルを活かせる職種はなんだろうかと考えた時に、自然と通訳という仕事がしっくりきて、そこからサイマルの門を叩き、大学在学中にサイマルアカデミーに通いました。

―――そうなんですね。それだと通訳者さんのステップとしてはかなり早い段階ですよね。
そうなんです。それもアドバンテージでありながら、ディスアドバンテージで、若すぎると通訳としてのクレジットをもらえない、でも若いからこそ転んでも前向きに立ち直れました。そうこうしている間にあっという間にこの歳!この年齢で二十年近いキャリアを持っているっていう、今となってはアドバンテージになっています。

通訳学校に通っている時、私は学生だったので、そもそも働いた実績がありませんでした。エージェント経由のお仕事はなかなかもらえなく、若い時は仕事をもらえないことが一番の苦労でした。
だからこそ今フリーになって色々お仕事いただけるようになって、お仕事をもらえることのありがたさは忘れないように、今でも意識しています。

Q2. 素晴らしいですね。通訳学校に通われている、お仕事がなかなかもらえない時期は、どのような働きかけをなさっていたのですか?
最初にアドミの仕事で秘書のサポートをする中で、オペレーションを学び、そこで評価して頂き、じゃ通訳やってみます?というような感じで、わりと通訳にこだわらず自分をアピールせざるを得なかったのが初期の頃の話でした。
アドミの業務には通訳業務は含まれていなかったけど、仕事を評価してくれて、且つ知識も培ったからと、現場オフィスの採用担当者がエージェントの窓口になっている人事にレコメをして下さいました。それで短期的なプロジェクトのフリーの通訳として、一人のエンジニアについて通訳することが決まりました。
一回、きっかけを作れば次の仕事に繋がりましたが、そこに入るまでがすごく大変でした。

次は、バイリンガル秘書で業務の3割が通訳という業務でした。私が付いていた方の上司に、彼女をフルタイムで通訳にしようと推薦していただき、指名で契約を切り替えてもらえました。
ちゃんと通訳をしていれば現場でのコミュニケーションの変化にユーザーは気づいてくれる、その評価が次のお仕事やチャンスに繋がると身をもって経験しました。

Q3. 通訳の面白さややりがいを感じられたエピソードはありますか?
私は通訳がすごい天職だと思っているので、生まれ変わっても通訳になりたいと思うくらい、通訳が好きです。
組織や社会的な地位の高い優秀な方々の考えを聞きながら通訳させていただくことは、すごく自分にとっても刺激になります。また、何事も表と裏があるから、やっぱりその裏を知れるのはすごく面白いです。
そういう面白さがこの職業にはあるということと、やりがいという意味では、英語をお話になれる方に利用していただくことです。
今の世の中、皆さんある程度英語をお話になれるのですが、そういった方々には時間の効率化といった価値で還元したり、より多くの情報を引き出せる様に尽力する等、英語ができる方こそ通訳に対しては評価が厳しいから、そういった方々の評価を得られるとすごく嬉しいですね。

時間の効率、スムーズなコミュニケーション、混み入った話で重要なところだから通訳を使うなど、お客様のニーズをしっかりと満たせたかどうかは自分でやっていてある程度わかるので、それが出来た時はやっぱり嬉しいです。
痒いところまでちゃんと他言語で意図をお届けする事が、私たちの役割だと思っています。

Q4. 通訳されている中で、意識していることやご自身のコツなどはありますか?
通訳者さんみんなそれぞれ個性があって、自分のやり方をお持ちだと思います。私は話者の言葉にあんまりこだわらず、意図をつかむように努力しています。
その言葉をそのまま英語に置き換えても通じない場合が結構あります。その人の独特な言葉の使い方で本来の意味と違ったりするので、そういうのを私はあえてスクリーニングして、エッセンスだけを吸い上げ、わかりやすい英語あるいは日本語に訳す様に心がけています。
特に最近グローバル化が進んで、全員が母国語で英語を話せる訳ではなく、むしろそうじゃない方々のほうが多いので、自分のボキャブラリー力を見せびらかすのではなく、みんなが分かる言葉に砕いて、聞かせてあげることを意識しています。
オーディエンスが誰かによって使う言葉を選ぶことは、スピーカーにとっても通訳者にとっても重要だと思っています。

―――たしかに!わかりやすい内容だと、聞いている方も頭に入ってきやすいですよね。
語学力があることは大前提ですが、私は語学力以上に理解力が一番重要だと思っています。その理解力は努力して身につくものではなく、なんとなく感覚的なものやセンスではあるけれども、周囲の空気をよく読み、自分をよく知ることが大切だと思います。
自分が通訳者としてどれくらいのレベルで何が足りないのか、それを自覚することが一番、自分を磨くことにつながると思います。何かコツというよりは自己認識。自覚が重要だと思います。

臭い物には蓋をしたくなるけれど、いかにそこを掘り起こして自分と対峙するかが私は大事だと思っています。それによって自分が一番恩恵を受けられると信じています。

Q5. お仕事とプライベートはどのように切り替えていらっしゃいますか?
私は同通の長丁場の案件の後はジムに行くとか、料理やフラワーアレンジ等、趣味で切り替えるように努力しています。お花があるだけでお部屋の空間って変わるので、そういうのを割と意識しています。
自分がやっている専門職から、いかに自分を離してあげるかという時間もすごく重要で、それが精神の統一、集中力に繋がります。若い通訳者さんは特に趣味を持つことを私は強くお勧めします。
いつでも仕事が出来てしまう時代だからこそ、オンとオフをしっかり切り替えてあげないと。余裕のある精神状態で仕事に臨むためにも、オフタイムを設けて、精神に余裕を持たせることが大事だと私は思っています。

Q6. 確かに現場での通訳者さんの落ち着きは、お客様に安心感をもたらしますよね。
青木さんの通訳として目指していらっしゃることをお伺い出来ますか?
通訳としてのスキルは、どんなに年月が経っても常に上を目指していたいし、完ぺき主義を貫きたいと思っています。
でも今すごく幸せだから、もっと収入を上げるというよりは、今ある幸せをどれだけ維持するか、守れるかというところに重きを置いています。
同じ料金で、もっと卓越したスキル・おもてなしでサービスが出来たら、お客様の維持にもつながると思っています。

通訳としてお金を頂くということを、自分の好きなお店に例えて考えると、高くて美味しいのは当たり前。美味しくて、安すぎる必要はないけれども、これだったら気軽に通える値段っていうところで私はどのお店がお気に入りかを決めています。高い金額で年に1回利用するより、年に数回定期的に利用していただく料金設定を私は意識しています。
つまり自分の通訳者としての値付けですね。この価値観は人それぞれですが、私は自分の通訳に対しこのクオリティでこのレートだったらもっと使えるなってお客様に思っていただける位置にいたいと思っています。しかも自分がもっと入ることによってそこのコミュニケーションが向上し、それが自分の仕事のやり易さにつながる。そういった好循環、フリークエンシーを実現したいと思っているので、あまり高い金額にはこだわらず、今のレートであれば十分。あとはお礼の気持ちを込めて、お客様にもっと良いクオリティを提供する事を意識しています。

あとは、通訳を使うことに対してハードルを下げたい、皆さんにとってアクセシブルなものであってほしいなとは思います。

私は自分自身の経験で結局学校に行くことが一番の近道だったと思っています。
英会話やミーティングは通訳学校の訓練がなくても出来るかもしれないけれど、通訳は意外に奥が深いから、学校に通ってちゃんと指導受けたほうが、後々自分にとってはいい投資になると私は思います。
もし通訳者になることを真剣に考えているならば、まず学校に行って、自分が本当に通訳者として向いているか否か、専門家の指導等を聞いた上で答えを出すべきだと思います。

Q7. 青木さんご自身の強みをお伺い出来ますか?
さっき言ったように若い頃にお仕事にありつくのに苦労したので、一個一個のチャンスをものにしないと通訳になれない。緊張でそのチャンスを台無しにするか、その緊張を楽しんで次につなげるかという一本勝負の積み重ねで精神は強くなって、動じなくなった気がします。
よく組む通訳者さんに、絢さん心臓、毛むくじゃらだからとか言われたの。(笑)
それくらいハートは強いかもしれないですね。

緊張しないわけではないのよ。全然緊張はするのだけど、緊張することによって自分のパフォーマンスを発揮出なかった時の悔しさがたまらなくて。出来たかもしれないという気持ちが残って眠れないのがすごい嫌。不安で寝られないというよりは悔しさで眠れないほうが強いから負けず嫌いなのかな、プロ意識かな。
仕事終わりのお酒のおいしさも違うし(笑)あんまり複雑に考えず、前向きに、これが出来たら美味しいワイン開けようとか、そういう感じでご褒美を設けて緊張を楽しむようにしています。

編集後記:
通訳が天職、生まれ変わっても通訳になりたいと思うくらい通訳が好きとお話し下さった青木さん。
長く通訳者としてご活躍されているからこそ見えてくる着眼点だけではなく、相手のニーズをしっかり汲み取る、自己認識など、通訳者だけではなく幅広い方の心に響くお話に、私自身もとても刺激になりました。
また、お仕事をもらえる有難さ、クライアントへの御礼の気持ちを意識されているというお話に、改めて素敵だなぁと感じました。
明るくポジティブな青木さんに元気を分けていただきました。ありがとうございました。

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ハイキャリア編集部

テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

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