INTERPRETATION

第8回 食事の出し方と交渉の行方

グリーン裕美

国際舞台で役立つ知識・表現を学ぼう!

皆さん、こんにちは。先週もイギリスからの政治ニュースが流れたかと思いますが、まだ不透明感が続くためBrexit Updateはあえて先延ばしにしたいと思います。それよりももう少し気が明るくなるようなトピックとして(on a lighter note)、英エコノミスト誌の記事 “Sharing a plate of food leads to more successful negotiations”を取り上げます。

東洋文化と西洋文化の大きな違いの一つには、食事そのものに加えて「食事の出し方」が挙げられるのではないでしょうか。日本人と食事をするときは割と「いくつか注文してシェアしましょう」ということが多いのに対して、英米人の場合は「これは私の」「これは僕の」と個別に注文をすることが多いと思います。この違いにカルチャーショックを感じたのはもう何十年も前。当時大阪在住で、確か居酒屋のようなお店で米国人が当然のように自分だけの料理を注文したときです。そのとき、強烈に違和感を感じたのを今でも覚えていますが、そのあともやはり同じような場面に何度も出会いました。そして今では欧州暮らしで個別のものを注文することに慣れていますが、それでも日本人と食事をするときは「シェアしましょう」ということが多く懐かしく感じます。これまで、そのような文化の違いには気づいていたものの、それがどのような心理的な影響を及ぼすのか真剣に考えたことはありませんでした。

前置きが長くなりましたが、そこで読んだこの記事。

先月の米朝首脳会談は物別れに終わりましたが、同記事によるとサミットでは同じ食事が個別のお皿で出されたとのこと(Donald Trump and Kim Jong Un had the same food brought to them on individual plates during their summit on February 27th)。同じメニューでも違った方法で出されていたら結果は違っていたかもしれない そうです(there might have been a more positive outcome with a different serving arrangement)。

最近の米大学の研究結果によると、家族のように真ん中に大皿を置いて食事を分け合ったほうがそのあとの交渉がうまくいく確率が高くなるとのこと(a meal taken “family-style” from a central platter can greatly improve the outcome of subsequent negotiations)。

以前から同じようなものを食べている人同士は親近感を感じやすい(eating similar foods led to people feeling emotionally closer to one another)ことが知られていましたが、今回の調査では食事の出し方に注目して、その心理的効果が計測されました。

交渉を始める前に大皿でスナックをシェアしたグループと個別に出されたスナックを食べてから交渉したグループでは、前者のほうが交渉がずっと早くまとまったそうです。つまり、食事の出し方を変えれば外交の場での交渉もうまくいくかもしれないと同記事はまとめています(these results suggest that such an arrangement really could help world diplomacy)。

イギリス議会の議員も大皿で食事を分け合うとEU離脱案がついにまとまるかもしれません。メイ首相とコービン労働党党首がお鍋をつついている姿は想像しがたいけれども(笑)。

「同じ釜の飯を食う」という日本語の表現には「連帯感」や「仲間意識」という意味が含まれているように、やはり食事を分け合うことで人間関係にプラスの効果が出ることが分かったという調査結果にはうれしく思います。限られた量のものを分け合うときの幸福感ってありますよね。

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記事を書いた人

グリーン裕美

外大英米語学科卒。日本で英語講師をした後、結婚を機に1997年渡英。
英国では、フリーランス翻訳・通訳、教育に従事。
ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。
元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。
英国翻訳通訳協会(ITI)正会員(会議通訳・ビジネス通訳・翻訳)。
2018年ITI通訳認定試験で最優秀賞を受賞。
グリンズ・アカデミー運営。二児の母。
国際会議(UN、EU、OECD、TICADなど)、法廷、ビジネス会議、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)などの通訳以外に、 翻訳では、ビジネスマネジメント論を説いたロングセラー『ゴールは偶然の産物ではない』、『GMの言い分』、『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。 また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』『Oxford Essential Dictionary』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。
向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに大きな喜びを感じる。 グローバル社会の発展とは何かを考え、それに貢献できるように努めている。
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