INTERPRETATION

第11 回 the augmented interpreterって何?

グリーン裕美

国際舞台で役立つ知識・表現を学ぼう!

皆さん、こんにちは。日本では新年度が始まり、新しい環境に慣れつつある方も多い時期かと思います。イギリスでは、今年はイースターが遅い時期(4月19日~22日)なので春休みも4月中旬と遅めです。Brexitはまだ先が見えない状態が続いているので今週は別の話題を取り上げます。

先週4月4日から二日間にわたりブリュッセルで第23回SCIC Universities Conferenceが開催されました。SCICというのはEU(欧州連合)の通訳総局(The Directorate-General for Interpretation)の通称名です。通訳総局の旧名称(仏語)の略ですが、今でも通称名として使われています。EUでは多言語主義 (multilingualism) が取られており、公式言語の数はなんと24。国連が6言語であるのと比べると、EUの通訳・翻訳の需要の高さが想像いただけるかと思います。すべての会議が24か国語に訳されるわけではありませんが、それでも相当数の通訳を必要としています。そこでEUは通訳者の教育にも熱心で、EU通訳者を養成する大学と提携し、カリキュラム作成などにもかかわっています。

そのSCICが開催した先週の会議では、今後の通訳教育の在り方、通訳に関連したテクノロジーの進化などについて話し合われました。会議はYouTubeでライブ配信されましたが、今でも録画を視聴できます(Day 1Day 2)。ドイツ語やフランス語の発言は英訳を聞けます。

近年、次世代の話でIndustry 4.0やSociety 5.0などという表現をよく見聞きしますが、同会議ではInterpreter 3.0 という言葉が何度も使われました。「デジタル変革に対応した通訳者」というような意味で使われています。またthe augmented interpreterという表現もあります。ここでのaugmentedはAugmented Reality(拡張現実)のAugmentedとよく似た意味で、従来の同通ブースにリアルタイムで提供される情報を取り入れた通訳です。

具体的には次の3つの要素が挙げられます。

  • 音声認識(Speech Recognition)によって自動で文字起こし
  • 上記1の情報から固有名詞や数字など通訳者が特に必要とする情報だけを画面に表示
  • 上記2の情報を用語集から検索または自動翻訳して表示

同時通訳中は用語集を確認しながら通訳する暇がないものですが、この技術がうまく機能すれば画面にリアルタイムで表示される情報を見ながら、より精度の高い同通ができるというわけです。

産業翻訳においては、かなり前からCATツールが一般的に使われるようになり、同ツールが使えないと翻訳者として仕事を得るのが難しくなりました。それに比べると通訳はまだ従来通りのやり方とほぼ変わりないとは言えますが、今後はテクノロジーをうまく利用して いくことは通訳者としてのサバイバルに欠かせないと思います。

でも、そこまでがんばっても結局はAI通訳に通訳者の仕事が取って代わられるのではないか、と不安を抱いている人も多いのではないでしょうか。この点についても同会議で話し合われました。次回で取り上げますのでお楽しみに。

 

2019年4月8日

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記事を書いた人

グリーン裕美

外大英米語学科卒。日本で英語講師をした後、結婚を機に1997年渡英。
英国では、フリーランス翻訳・通訳、教育に従事。
ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。
元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。
英国翻訳通訳協会(ITI)正会員(会議通訳・ビジネス通訳・翻訳)。
2018年ITI通訳認定試験で最優秀賞を受賞。
グリンズ・アカデミー運営。二児の母。
国際会議(UN、EU、OECD、TICADなど)、法廷、ビジネス会議、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)などの通訳以外に、 翻訳では、ビジネスマネジメント論を説いたロングセラー『ゴールは偶然の産物ではない』、『GMの言い分』、『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。 また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』『Oxford Essential Dictionary』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。
向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに大きな喜びを感じる。 グローバル社会の発展とは何かを考え、それに貢献できるように努めている。
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