INTERPRETATION

第31回 Brexit の最大のネック、アイルランドってどんな国?

グリーン裕美

国際舞台で役立つ知識・表現を学ぼう!

先週は一週間アイルランド共和国で過ごしました。アイルランドとはBrexitでは、最大のネックであるバックストップ条項で話題になる国、グレートブリテン島(イングランド、ウェールズ、スコットランド)の西にある島の南側の独立国です。けれども歴史的には長い間大英帝国の植民地だったし、お隣なので、今でもとても密接な関係があります。

ところで、「海外」「外国」というとどんなイメージがありますか? 自分の国とはどう違うと思いますか? 海外旅行・出張のときは何を準備しますか? 私が思いついたのはおおまかに以下です。

  1. 気候
  2. 通貨
  3. 言語
  4. 食事
  5. 服装
  6. 電圧・コンセント・プラグ
  7. 人種
  8. 挨拶の仕方(おじぎ/握手/ハグ/キスなど)

「海外」という言葉も興味深いなと思います。日本は島国なので「海外」→「海の向こうの国」→「外国」で、「海外」と「外国」はほぼ同義。そして英語は元はイギリスという島国の言葉のせいかoverseasというと「外国の/へ」の意で使われます。ただ、厳密にはやはり「海の向こうの国」の意なので、陸続きの外国に対してはふつう使われません(米語ではカナダやメキシコにも使われるそうですが)。

ところで「イギリス」の英訳は、中学のときにEnglandと習った記憶がありますが、それは不正確で、正式な国名はThe United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)。長すぎるので通常はUKあるいはthe United Kingdomが使われます。ちょっとしつこく聞こえるかもしれませんが、もう一度おさらいすると、UKには「イングランド」「スコットランド」「ウェールズ」「北アイルランド」という4つの国があり、この4つをまとめてUK(通称イギリス/英国)と言われます。

先週滞在したアイルランドは北アイルランドとは陸続きですが、主な宗教はカトリック教(UKはプロテスタント)で、独立国です。
イングランド在住の私からすると「海外」「外国」の両方に当てはまるわけですが、では上記8つ挙げた「海外/外国」のイメージとどれくらい合っているかというと。。。

まずは2の通貨です。アイルランドはユーロを導入していますが、イギリスの通貨はポンド(pound sterling)。

3の言語ですが、「公式言語」は英語とアイルランド語(ゲール語の1つ)。けれども基本的に「母語」は英語です。アイルランド語は国策的に保護の対象となっているため「学校で教えられた言語」だそうです。

4の食事というか飲み物ではギネスビールが有名ですが、イギリスと同様、ジャガイモが食卓に出ることが多いです。

このようにUKと異なる点は限定的で、実際に訪れるとそれほど「異国に来た!」という感じがしません(スコットランドの方が異国情緒に溢れていると思います)。気候も言語も食事も服装も大差はなく、プラグもUKと同じ、大きめの3本足。

国籍も興味深いことに、北アイルランドの住民はすべてアイルランドとUKの両国籍を得る権利があります。UKがEUを離脱することになったため、それまではUKパスポートだけ所持していた人がかなりアイルランドのパスポートを申請したそうです。

そして国境はというと共通旅行区域(CTA)制度があるため入国審査なく自由に両国を行ったり来たりできます(参照記事)。この状態を残しておきたいとUKもアイルランドも強く願っているために、北アイルランドだけでもEUの規制下に置くというバックストップ条項の問題が出てくるわけです。なんだか、北アイルランドは二つの国と「結婚」していて、今まで公然と重婚が認められていたのにBrexit(イギリスとEUの離婚)で事情が変わり、だからといってどっちかを選ぶこともできない…そんな状態に思えます。

No deal Brexit(合意なし離脱)の場合は、ここにHard Borderが設けられる、つまり国境管理が行われるようになり、自由な往来ができなくなります。つまり、一方との離婚を強いられるようなもので、それはUKもアイルランドも受け入れがたいことなのです(どちらも重婚のままがいい)。

9月前半は、英議会で大もめにもめて、まったく先が見えない状況でしたが、ここにきて欧州委員会のユンカー委員長はスカイニュースとのインタビューで「合意は可能」であり、「バックストップにこだわる必要はない」とさえ発言しました。

一方、英ボリス・ジョンソン首相も “I don’t want to exaggerate… but we are making progress (誇張はしたくないが進展はあった)”とコメント

英政府は10月31日に何があっても(whatever happens / no ifs or buts / come what may/ do or die)離脱するという姿勢は崩していないものの「合意あり離脱」への期待感も高まった1週間でした。

ところで、ラグビーワールドカップがいよいよ始まりましたね。

アイルランドは現在世界ランキングNo 1の強豪国ですが、アイルランド代表チームは北アイルランドとアイルランド共和国の両方から選手が選出され、一つのチームとして団結してプレイしています。

やっぱり北アイルランドは心理的にはUKよりもアイルランドに近いんだろうな、強制離婚させるわけにはいかないなと思います。ただ、私は北アイルランドには行ったことがないということも追記しておきます。

以上、Brexitを別のアングルから見てお伝えしました。

ところで、2015年イングランド大会では組織委員会に同行して1か月間ずっと日本代表チームが試合する都市で通訳していました。4年も前の記事で恥ずかしいのですが、2019年大会でも使える表現がありますのでよかったらご覧ください(第14回第15回)。

2019年9月23日

ゴールウェイ大聖堂(Galway Cathedral) 1965年建築で歴史の浅い大聖堂ですが、存在感はどっしり。

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エア・スクエア(Eyre Square) 街の中心にありシンボル的な存在

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メインストリート(Shop Street) 歩行者天国でいつも賑やか、皆楽しそうにしている 

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川べりで若者がくつろいでいるのを見て京都の鴨川を思い出した

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記事を書いた人

グリーン裕美

外大英米語学科卒。日本で英語講師をした後、結婚を機に1997年渡英。
英国では、フリーランス翻訳・通訳、教育に従事。
ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。
元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。
英国翻訳通訳協会(ITI)正会員(会議通訳・ビジネス通訳・翻訳)。
2018年ITI通訳認定試験で最優秀賞を受賞。
グリンズ・アカデミー運営。二児の母。
国際会議(UN、EU、OECD、TICADなど)、法廷、ビジネス会議、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)などの通訳以外に、 翻訳では、ビジネスマネジメント論を説いたロングセラー『ゴールは偶然の産物ではない』、『GMの言い分』、『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。 また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』『Oxford Essential Dictionary』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。
向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに大きな喜びを感じる。 グローバル社会の発展とは何かを考え、それに貢献できるように努めている。
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