INTERPRETATION

第27回 インビジブル

寺田 真理子

マリコがゆく

その場にいたけど、いなかった人

そういう扱いをされることに慣れています。

だって、通訳ですから。機材としか思わないお客さまがいるのにも、とっくに慣れっこです。そんなことでいちいち傷ついていたら生きていけません。

さっきまで一緒のミーティングに出ていたのに、終わったら顔を合わせても素通り。そんなこともよくありました。

外国人に弱いのか、どうしても相手の顔を見ようとせずに、ミーティングの間中ずっと通訳のほうばかり見て話すようなお客さまもいらっしゃいますが。それでも、終わったらまるで通訳が存在しなかったかのようにさっさと行ってしまったり。

「インパクトが薄い顔なのかしら?もっと化粧濃いほうがよかった?それか、なんかものすごい失敗をやらかすとか?あ、そうだ!鼻血通訳だったら絶対に覚えてもらえるわ!

ときどきそんな余計なことを考えてみたりします・・・。

とはいえ、インビジブルな存在なのも、これはこれでラクだったりします。人としての関わりを求められてないわけですからね。やることをやってビジネスライクに済ませればいいわけですから、いたってシンプルです。

ただ、途中で質問したいことがあったりすると困ります。

機材なのに、なんで質問しだすんだ!?なんだ、一体?壊れたのか?

そんなふうに機嫌を損ねるお客さまもいて。憮然として通訳を睨んできたり。お客さまとはいえ、さすがに感じ悪いです。

そんな中でも、ときたま、いるんです!通訳も参加者のひとりみたいに扱ってくれるお客さま。仕事の後などにもいろいろと話しかけてくれたりして。すれ違ったら会釈されたり。

あれ?えっ!あ、わたし!?

すみません。慣れないもので。まったく予想していなくて、あやうく無視しそうになるのです。

わざわざ挨拶に通訳のところにやってきてくれたのに。

「どこに行くのかしら?」

なんて目の前に来るまで気付かなかったり。いや、目の前にいても、どこかに向かう途中なのかと思って気付かなかったりするのです。

これじゃ、わたしのほうが「感じ悪い人」みたいです・・・。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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