INTERPRETATION

第63回 ハッピー通訳(後編)

寺田 真理子

マリコがゆく

「通訳しながら、ハッピーであること」

燃え尽きていた期間に、このことを考えるようになりました。それまでしていた仕事といえば、企業買収やら、ユーザー全員大反対の基幹システムの導入やら、ダークな社内政治やら…。

そう、ブラックなマリコだったのです。

そういう仕事を楽しめるタイプなら問題ないんですが(いや、それはそれで人間的に問題がありそうですが…)、やりながら悶々としていたのです。

「この仕事の通訳って、誰かの役に立ってるの?」
「役に立つっていうより、むしろ人を苦しめる手助けをしているような…」
「これじゃわたしって、悪の手先?」

そう思いながらも、「そうやって苦しむのも仕事のうちなのか」と自分を納得させようとしていました。そもそも、「仕事というのは苦しくてつらいもの」と最初から思ってたんですよね。仕事をしている自分がハッピーかどうかが問題になるなんて、思ってもいなかったんです。

「どうやったら自分がもっとハッピーに生きられるのか?」
この視点が、わたしにはスコーンと抜け落ちていたんです。むしろ、考えること自体が、まるで悪いことのように思ってました。罪悪感すら感じるという、なんとも真面目な人間だったのです。あ、今でも基本は真面目です、念のため。

ただ、考え方が変わりました。
「自分がハッピーに生きられるようにするのも、自分の責任」
そう思うようになったんです。

どんな仕事でも、ハッピーに生きられる道はあるはず。自分が興味を持って、やりがいを感じられる仕事をやれば、ハッピー通訳でいられるはずなんです。
実際問題として、そんなにうまく都合のいい仕事は回ってこないもの。

「だったら、自分がやりたい仕事が自分に回ってくるような仕組みそのものをつくっちゃえばいいんじゃない?」
そう考えて、てくてく、てくてく、歩いてきました。時間はかかりましたが、自分の価値観に沿った仕事ができるようになってきました。もう、ブラックなマリコじゃありません!

もし、いまの仕事で悩んでいる方がいたら、どうかそれを「当たり前」と思ってしまわないでくださいね。
みんなハッピー通訳になっていいはずなんですから!

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Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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