INTERPRETATION

第52回 スライダー

寺田 真理子

マリコがゆく

あれ?さっきまでの話はどこいっちゃったんでしょう?

たまにいるんです、こういう「スライダーさん」。勝手にわたしがそう名づけたんですが、こういう人って、話し始めてからトピックがどんどんスライドしていっちゃうんです。

「コスト意識を強く持たなきゃいけないってことは、そういえばこの間のミーティングで人事の手続き変更があがっていたけど、上からの承認がなかなかとれなくて、こっちの作業が止まっているっていうのもあるんだよね。リリースのスケジュールってどうなっていたか・・・あ、そうだ、監査の対応も考えないといけないし、各チームのスコープがはっきりしてないのが問題だよね」
こんな具合に、次から次へとスライドして、聞き手も通訳も置いてけぼりです。
この手の人の通訳は大変ですよ。だって、どの話もきちんと完結してないんですから!

原文が単語と文章の切れ端だから、訳したものをきれいな文章に仕上げるのはかなり無理があります。全部訳していったら、聞いている人はわけがわからないだろうし。そもそも原文がわけがわからないんですから。
かといって、まともに完結した、意味のあるところだけ訳そうとすると、ずっと待っていて終わっちゃうことになるんですよね。

「結局、この人は何が言いたいのか」
スライダーさんの場合は、これをつかむしかないんですよね。

人によっては、スライドしながらいろんな種類の話を10通りぐらいしても、結局は全部ひとつの話に集約できたりするんです。でも、ずっと聴いていて、最後になってやっとそれがわかったりするから、意を汲んで訳すも何もないんですけどね・・・。

何回も同じ人の話を訳す機会があれば、話し方の癖だけでなく、「ああ、こういう考え方がバックにあるからこういう意見が出てくるんだな」っていうのがわかってくるので、余裕を持って訳せるようになります。

というよりも。

「そんなしょうもないことを考えてるから、こんなおかしなことを言うのね」

ということがわかります・・・。

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Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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