INTERPRETATION

「コミュニティー作り」

木内 裕也

Written from the mitten

 先週の投稿では、私の友達などアカデミックなコミュニティーの紹介をいたしました。今週はアメリカのデジタルコミュニティーをご紹介します。

 日本でもMixiなど様々なオンラインのコミュニティーが存在していますが、アメリカでも同様です。写真のようにキャンパスの随所には無線LANによるサイバーカフェがあります。この様な恵まれた環境の中で、私が教えている18歳〜22歳位の大学生も複数のコミュニティーに参加しているようです。その中でも特にMy Spaceと呼ばれるものが人気です。日本語の実験版が存在しているという噂ですが、2003年に立ち上げられたオンラインコミュニティーです。そもそもは趣味で音楽を行っている人たちが自由に自分達の音楽を交換できるように、と始められたとか。かつては一生懸命CDを作って、それを路上で売ったり、オンラインで売ったりしていたのが、My Spaceの存在で自由にやり取りができるようになりました。CD会社に登録しているミュージシャンではありませんから、利益目的というよりは、自分の歌を他の人に聞いて欲しい、という気持ちで音楽の交換を行います。今では数千万人という登録者がいます。My Spaceで人気になってTVなどに出てくるようになったミュージシャンも。私はMy Spaceなどのサイトも研究対象としていますが、Authority(権威)という概念に変化が生まれていると感じます。つまり、かつては大手のCD会社との契約が成功の第1歩であったのに対し、今ではオンラインで大人気になって大手の会社がコンタクトをしてくるようになりました。聞き手も無料で音楽を聴いて、気に入ればそれが広まり、似た趣味のもの同士で情報交換ができます。「MTVで歌っていた」ということが評価につながらなくなっているのです。すると、これまで「権威」とされていたものの位置づけが変わります。

 「権威」といえば、Wikipedia。自由に書き込みのできるオンライン百科事典。通訳や翻訳の案件直前に、急いで調べ物をするのに重宝します。しかし私の学生がWikipediaの情報を論文に引用してくると、「この学生にとって情報元はブリタニカではなく、Wikipediaなんだ」と思わざるを得ません。極論をいえば、物理の授業を1度もとったことのない私が、Wikipediaで物理に関する情報を投稿することもできます。従って、街中を歩いている人に「すみません、特殊相対性理論って何ですか?」と聞いて、その答を学術論文に引用するのと同じなのです。逆にこれまで権威とされてきた百科事典や学術書はその分野の専門家が執筆し、他の専門家がチェックした後に出版されています。もちろん学生にとって、図書館へ行くのが面倒でWikipediaに頼る、という点もあるでしょう。しかしその情報を鵜呑みにするどころか、論文に引用するのを目にすると、やはりAuthorityの定義が変わっていると思ってしまいます。

YouTubeも日本で大人気のようですが、アメリカでも非常に人気です。こちらは映像を投稿するコミュニティーと言うことができるでしょう。こちらではlonelygirl15というサインネームで日常生活を映像を投稿していたビデオが、実はプロによる映像と言うことが判明し、話題になりました。Authorityという観点から考えると、アマチュアでもプロ同様の編集をする人が増えています。編集ソフトウエアの発展によるところが大きいでしょう。同時にAuthorityだけではなく、Authenticity(真偽)の問題もあります。Jessica Roseという女性によるフィクションに対し、大きな批判が沸き起こったのは、YouTube上にある映像が全て本当の映像であるはずだ、という考えが視聴者にあったためです。普通のテレビと違って、YouTubeは自由に映像作品を投稿する場ですから、全くのフィクションが存在する可能性も充分あるのですが、多くの視聴者にとって、それは認められないことであったようです。

 さて、以上3つのコミュニティーを紹介しました。どれも私の学生がお気に入りのサイトばかりです。最後は、学生の一番のお気に入りコミュニティーをご紹介します。そのコミュニティーとは、宿題を助け合うコミュニティー。例えば社会学専攻の学生が必修科目の地学の授業で宿題を持ち帰ったとします。そんな時はそのコミュニティーへ向かい、地学を専攻としている学生に宿題を依頼します。逆に、社会学で困っている人の宿題を代わりに解きます。ある意味では「助け合い」ですが、こんなことも比較的頻繁に行われているようです。また、授業をサボってしまった場合のために、同じサイトで板書の写しが10ドルで販売されていた、とも聞いたことがあります。また、「発言ポイント集」と題して、「この内容を扱うときには、この発言をすると教授に『この学生はよく勉強しているな』と思ってもらえる」というリストも。

  今週の写真は、大学図書館にあるサイバーカフェ。館内に無線LANが走っていますが、軽食を食べながら本を読め、そしてオンラインにもなれるサイバーカフェはいつも混雑しています。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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