INTERPRETATION

「欧州の旅4」

木内 裕也

Written from the mitten

 オーストリアの次は、ハンガリーを訪れました。フランス、スイス、ドイツ、オーストリアは既に訪れたことがある国でしたが、ハンガリーは初訪問。何かどきどきしました。またオーストリアまではまだ西欧というイメージですが、ハンガリーという響きは何か中欧的で、何となく暗い歴史を思い浮かばせる雰囲気があり、今まで滞在したことのある国とはまったく違った雰囲気の街を楽しめるのではないか、と期待していました。

 ハンガリーで訪れたのは、首都のブタペスト。旅程の関係で早朝に電車で到着し、夜の電車で次の目的地に向かわなければならなかったので、滞在時間は12時間程度でした。飛行機の旅行であれば機内持ち込みができるサイズの小さなスーツケースを引っ張りながら街中を歩くのはやや不便でしたが、ひとまず主要な観光スポットはおさえることができました。ガイドブックに「駅でホテルの客引きが横行している」と書かれていたので心の準備はしていましたが、電車を降りる人を見かけると数多くの客引きが声を掛けてくるのにはやや閉口しました。また小銭をねだる子供達の数も、ドイツやオーストリアより格段に多く、経済的に苦労している人々はまだたくさんいるのだと感じました。

 駅から川を渡ったところにある山の上に聳え立つお城はとても綺麗でした。そこからは写真の通り街中の景色が一望できます。建物だけを見ると、昔からの建築物がたくさんあるようですが、街中は想像していたよりもずっと近代化していました。大きなショッピングモールがあったり、ネオンの広告があったり。欧米の主要なホテルもたくさんありました。駅で感じた経済的苦境の現実と、街中で感じた経済発展の雰囲気はどうも結びつかない感じもしましたが、それが苦しい過去から発展を遂げようとしている国の厳しい現実なのかもしれません。

 1日をブダペストで過ごし、所要時間13時間の夜行列車に乗り込みました。行き先はルーマニアのブカレスト。今回の欧州旅行2つ目の学会が行われる場所です。車内では細切れに眠ることができましたが、やはり疲れはたまりました。ブカレストに到着すると地下鉄を乗り継いで、すぐにホテルにチェックインしました。朝9時ごろだったので、部屋には入ることができませんでしたが、ホテルのロビーにあるトイレで身支度をし、学会の会場となる大学に向かいました。距離は2キロ程度しか離れていなかったので徒歩で向かったのですが、途中工事現場で道に迷いました。英語はやや不自由だけれどとても親切な人が、すぐに地図で行き方を教えてくれました。

 ブカレストの大学はキャンパスがあるのではなく、街中のビルを大学が購入して校舎として使っています。したがって、大学のビルの隣に普通の建物があり、キャンパスという雰囲気はまったくありません(Boston Universityをご存知の人は、そんな雰囲気です)。特に構内の地図があるわけでもないので、メインのオフィスと思われる場所で学会会場への行き方を聞いてみましたが、窓口の人は英語を解しませんでした。工事現場で道に迷ったときもすぐに声を掛けてくれた人がいて驚いたのですが、この窓口でもすぐに複数の現地学生が声を掛けてくれました。学会のパンフレットを見せると、1人の学生が「そのビルを知っているよ」と教えてくれました。裏道を通らなければいけないということで、彼女はわざわざ数百メートル離れた会場のビルまで連れて行ってくれました。英語はそれほど得意ではないようでしたが、私が日本から来たという話になると、突然目を輝かせて「友達が日本語を勉強しているんだけど、会ってくれる?」と。そこで学会の受付で登録を済ませて、その友人に会うことにしました。私の発表までは数時間ありましたから、私にとっても丁度それまでの時間を1人で過ごさなくてもよくなりました。日本語を勉強している友人は、今年の夏に日本に数週間留学することになっているようで、文化や歴史など、たくさんの質問を抱えていました。またルーマニアと日本がもっと文化交流をして欲しい、と強く願っているようでした。ルーマニアにいると中国人や中国文化のほうが目にする機会が多いようです。また日本の歌手やTV番組は経済力のある西欧諸国には進出するものの、ルーマニアに進出することは少なく、日本に関心がある人は多いのになかなか情報が得られないとの事。もっと文化交流が行われるように、自分が変えたい、と強く語っていました。大学に入ったばかりの彼女でしたが、そんな風に強い希望と意志を持っている姿を見て、「日本の大学1年生や2年生も、これくらい強い気持ちを持っている人がいるのだろうか?」とやや疑問に思いました。

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記事を書いた人

木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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