INTERPRETATION

日本についての知識

木内 裕也

オリンピック通訳

特にボランティアとしてオリンピックで通訳をする場合、日本や東京、また競技開催都市に関する基本的な知識を問われることが多くあります。

例えば1998年の長野オリンピックでは長野駅など交通の要所や善行寺などの観光地に多くのボランティアが配置されていました。また競技会場周辺でも、語学力を生かしたボランティアが活躍をしていました。そんな語学ボランティアにとって、外国人の滞在を外国語でサポートすることが求められます。つまり、観光に関する質問を、観光局の人に通訳し、その回答をまた通訳するだけではなく、自分が情報源となることも求められます。

これは一般的な通訳の現場ではまずないことです。例えば「今朝の為替レートで1ドルは何円位でしたか?」という質問があった場合、例え「さっきニュースで見たら1ドル=110円だったな」と思っても、通訳者はそのまま通訳をします。自分で答えてしまうことは、休憩時間中に自分に直接聞かれた時くらいしかありません。しかしオリンピックなどのボランティアでは、自分で回答できることは自分で回答してしまうことが求められます。たくさんの人が会場を訪れ、それに対して対応できる人数が少ないためです。

そう考えると、聞かれそうな質問をできるだけ多く想定して、その回答を事前に準備しておくことが望まれます。この能力は、同時通訳のプロとして仕事を始める前に、駆け出しのアテンド通訳などで経験を積むときにも役立つでしょう。アテンド通訳などでは、アテンドする行先の地理だけでなく、食べ物や観光など様々な事前情報を集めて臨みます。それと同じような作業です。

東京で行われるオリンピックであれば、浅草やスカイツリーに行きたいという人は多いでしょう。またその近所で売られている食べ物のサンプル(レストランで見かけるものです)も人気です。秋葉原や渋谷の交差点もよく知られています。少し足を延ばして鎌倉に行きたいという人も多いでしょうし、週末には京都や大阪、広島などにも行く人もいるでしょう。どうやって行けばよいか、どんな楽しみ方があるか、どんな食べ物がおいしいかなど、素早くこたえられるとスマートです。

東京の交通網は便利ですが、初めて東京を訪れる人にとっては容易ではありません。JR、東京メトロ、在来線など色々ありますので、その違いや、乗り方も説明できると良いですね。英語の路線図があれば、事前にコピーをしておいて、渡せるようにしてもよいです。ファンであればある会場から別の会場に行く方法を知りたいと思うかもしれません。自分の競技が終わった選手やスタッフであれば、お土産を買いたいかもしれません。そのあたりのサポートもできると喜ばれます。

また、もちろん日本全般についての質問もあり得ます。歴史から文化、政治のシステムまで、1度おさらいをしておくとよいでしょう。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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