INTERPRETATION

悩む立ち位置

木内 裕也

オリンピック通訳

会議であれば通訳者の座る席がきちんと用意されています。スポーツ選手が雑誌などのインタビューを受ける時も、基本的には通訳者の席が用意されています。しかし大会が始まってしまえば、突然通訳業務が発生します。選手やスタッフと一緒に移動していて業務が発生することもあれば、語学ボランティアであれば会場内にいて急に声を掛けられることも。そんな時に気を付けるべきは、通訳者としてどこに位置するか。

ウイスパリングなどであれば、聞き手に近い場所にいることが望ましいです。また騒がしい環境の中での仕事であれば、スピーカーに近い位置に場所を取ることも大切。しかし、聞き手や話し手の近くに行けば行くほど、テレビや写真の中に自分の姿が映ってしまう可能性が増えます。そんな時には聞き手の横に立つよりも、少し後ろに立つだけで、存在感を薄めることができます。

公式記者会見場などは狭い会場に多くの機材や人員が詰め込まれます。そうすると、カメラが映す枠のギリギリまで機材や記者席が迫っていることも。画面上はゆったりと見えても、枠のすぐ外は混沌としています。画面の枠が会見場のどこまで迫っているかに気を払わないと、自分の持ち物がテレビに入り込んでしまうリスクもあります。競合スポンサーのロゴだけではなく、オリンピックの様な大会ではスポンサーになっていない会社のロゴは競合でなくても一切禁止されていますから、充分に気を付ける必要があります。

また、主役である選手やスタッフなどの近くにスポンサーの看板があることも。自分の背後を気にしていないと、通訳者がスポンサーの看板の前に立ってしまう、ということになりかねません。どんなに通訳のパフォーマンスが良くても、大きな問題になる可能性があります。

ある大会では、スポンサーの看板に傘を立てかけたスタッフが叱責を受けている様子を目にしたこともあります。観客としてスポーツイベントに参加していると、特にスポンサーを意識することはないかもしれませんが、スタッフとして参加する場合には、例え小さな看板であっても、充分に気を付ける必要があります。実際、競技場の周りに備え付けられている膝程度の高さの看板に足を乗せて、靴紐を締めなおしていた選手が注意されていたこともありました。

このコラムでもかつて、スポンサーには十分気を付けて持ち物に気を払う必要性があると書きましたが、看板などの前に立ってしまっていないか、また看板の扱い方等も気にする必要があります。

Written by

記事を書いた人

木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

END