TRANSLATION

第47回 レイアウト能力を身につけよう

土川裕子

金融翻訳ポイント講座

こんにちは。年度初めではありますが、今回は番外編として、翻訳者に求められるレイアウトの能力について少しお話したいと思います。

ちょうどこの原稿を書く直前に納品した仕事が、まさにそれでした。原稿そのものはPDFファイルでもらったのですが、それをWordファイル化したものを渡していただき、そこに訳文を上書きしていくという、よくある形です。

PDF原稿だけを渡され、自分で作ったWordファイルに訳文をベタ打ちするケースもあります。画面上でPDFを見ながら、あるいは印刷した原稿をPCの前に置いて見ながら訳す人もいるかもしれませんが、Word上にテキストをコピー&ペーストして、そこに打ち込んでいく人の方が今となっては多いでしょう。わたしもそのタイプです。

ただ、PDFのテキスト部分だけをきれいにコピペするには一工夫必要で、ファイル全体はもちろん、1ページ単位でコピペしても、ほとんどの場合は段落の順序がめちゃくちゃになります。しかも、コピペ後の文章をWord上で見ると、すべての行に改行が入っていることもしばしば。というよりその方が多いのです。わたしも大昔は、手動で一つずつ(!!)改行をとっていたのですが、それだけで一日が終わってしまいそうな分量のこともあって、いつからかWordのマクロとエディタの改行削除機能を併用して、ごく短時間でちゃらら〜んと改行を削除できるようになりました。

Wordベタ打ちの場合、文字の大きさや色、段落分けなどを原文と同じ感じにしさえすれば、あとは翻訳の中身に集中できます。しかし先ほど挙げた、PDF文書をWord化したファイル上で訳す場合は、そう簡単には行きません。英語とできあがった訳文の長さがまったく同じならば問題はありませんが、違うことの方が多いので、そのたびに恐ろしいほどの時間をかけて調整せねばなりません。(例えばP.5に入っている英文に対応する日本語は、日本語ファイルでもP.5内に収めねばならないため)

翻訳文の方を長くしたり短くしたりして調整できればまだしも、それでも追い付かない場合、レイアウトで対処することになります。文字だけで説明するのは不可能に近いので省略しますが、アプリケーションWordの基本的なレイアウト能力がないと、正直、「とんでもない」状況に陥ります。誇張ではありません。「とんでもない」です。

Wordを使っていて悲鳴を上げる瞬間。例えば…

  • ふとした拍子にフォント、文字サイズ、行間、インデント等々、文書レイアウトが勝手に変わる。
  • テキストボックスや画像が自分の置きたい場所に収まってくれない。勝手にどこかへ消えうせる。
  • アプリケーションが強制終了する。強制終了の頻度は以前ほど多くはないが、それでもいつ終了するか分からないため、一文、いや一つの単語や句を入力するたびに上書き保存コマンドを実行する癖をつけておくことが、現代翻訳者の生きる条件である。

ま、強制終了以外は、何かプログラム上のふか〜い理由があるのかもしれませんが、一介の翻訳者には勝手に動いているようにしか見えません。

それにDTPを日々こなしている方々からすれば、どうということもない状況なのでしょうが、我々翻訳者にとっては、あくまで無駄な作業。そんなことに時間を使うくらいなら、一行でも多く訳し、一回でも多く見直ししたい。といって「レイアウトは他の人にやらせてよ」と言えない状況が多いことも確かです。

ですから、WordやPowerPoint、Excelの基本的なレイアウト能力は、しぶしぶでも身につけておきましょう、というのが今回のテーマです。しぶしぶ。

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記事を書いた人

土川裕子

愛知県立大学外国語学部スペイン学科卒。地方企業にて英語・西語の自動車関連マニュアル制作業務に携わった後、フリーランス翻訳者として独立。証券アナリストの資格を取得し、現在は金融分野の翻訳を専門に手掛ける。本業での質の高い訳文もさることながら、独特のアース節の効いた翻訳ブログやメルマガも好評を博する。制作に7年を要した『スペイン語経済ビジネス用語辞典』の執筆者を務めるという偉業の持ち主。

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