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第47回 自信が持てない?

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

今回は、女性向けのお話です。

これまでに多くの女性が「私なんて」「私なんか」と言うのを耳にしてきました。私から見ればとても優秀で、経歴も立派で実力も兼ね備えているのに、本人の自己評価がとても低く、自信が持てずにいるのです。

男性に比べて、女性は自信を持ちづらい傾向があるようです。オーストラリアで女性初のチーフ・ディフェンス・サイエンティストに今年3月に就任したタニア・モンローさんにも、大学時代にカルチャーショックを受けた経験があるそうです。試験が終わって出来が悪かったと落ち込んでいる自分と対照的に、男子学生は自信たっぷりでした。自分には実力がないと落ち込んでいたところ、試験結果が発表されると、自分の成績のほうが上だったのです。そんな経験を繰り返すうち、女性は自信を持てないことが課題なのではと気づいたそうです。

このことは、『女に生まれてモヤってる!』という、コラムニストのジェーン・スーさんと脳科学者の中野信子さんの対談本でも取り上げられています。中野さんはこう述べています。

何か目標を達成したり仕事に成功したりしても、「私の実力ではなく、運がよかっただけ」と思い込んでしまうことを「インポスター症候群」というのですが、インポスター症候群は女性がすごく多いんです。男性よりも、女性のほうがこの心理を持ちやすい。本当は実力があるのに、「私なんて実力がないのにいいのかな」と罪悪感に苛まれてしまうのは圧倒的に女性のほうだ、という。

本書ではさらに、女性は「女らしさ」を社会的に求められてしまうために女らしくないと自信を持てない、だけど自信を持ってしまうとそれは女らしくないことになる、という「このゲームの設定がそもそも無理なのでは?」との考察がされていて思わず膝を打ちます。社会的な仕組みによって自信を持ちづらくなっていることに気づけば、自分を責めることもなくなるでしょう。

私は自信満々の方よりも自信が持てないで悩んでいる方のほうに人間的魅力を感じます。社会的に活躍されていて、一見すごく自信がありそうに見えても、「自分に全然自信がない」という方も意外に多いものです。自信はなくても生きていけるし、大きな仕事を成し遂げることもできるのですよね。

ただ、何か一歩を踏み出そうとしたときに、自信がないために足が止まってしまうとしたら、とてももったいないと思うのです。せっかく「これは」と思う原書を見つけて、企画書をまとめて、あとは持ち込むだけというときに「私なんて」「私なんか」が邪魔をしてしまうとしたら……。

そんなときに、「女性にはそういう傾向があるらしい」と知っていれば、行動が変わってくるのではないでしょうか。自己評価よりも、客観的な評価のほうがずっと高いはずです。体感的には、女性の自己評価は客観的評価の6割以下ではないでしょうか。だから自分では「こんな企画書じゃせいぜい60点」と思っていても、人から見れば「素晴らしい!100点!」となるものです。そう思って、一歩を踏み出してもらえたらうれしいです。

 

※この連載では、読者の方からのご質問やご相談にお答えしていきます。こちら(私の主宰する日本読書療法学会のお問い合わせ欄になります)からご連絡いただければ、個別にお答えしていくほか、個人情報を出さない形で連載の中でご紹介していきます。リクエストもあわせて受け付けています。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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