TRANSLATION

第84回 柔らかい文章を訳す④

土川裕子

金融翻訳ポイント講座

こんにちは。昨年8月からマジメな課題ばかり取り上げてきたので、今回は、いつも年末にやっているような息抜き回にしようかなと思います。(心機一転の4月なのにすみません。フリーランスには何の関係もないもので…(笑))

と言いつつ、旧Twitterなどでいろいろ探してみたものの、これといったものが見つからないので、いま話題のChatGPTにご登場願って、「くすっと笑える小話を英語で作ってちょーだい」とお願いしてみました。…のですが、ChatGPTさんのセンスはまだまだのようで、何十も作ってもらって、ようやくこれなら、と思えるものが見つかりました。

【本日の課題】
Why was the math book sad?
Because it had too many problems.

「柔らかい文章を訳す」回の恒例、まずはAI諸氏に訳してもらいましょう。

【Google翻訳氏】
なぜ数学の本は悲しかったのですか?
問題が多すぎたからです。

【DeepL氏】
なぜ数学の本は悲しかったのか?
問題が多すぎたからだ。

うーん。笑い話としては成立していますが、もう少し工夫の余地があるでしょうか。

1行目に唐突な感じがあるので、1行目を2つに分けると良いかもしれないですね。例えば「数学の本は悲しい思いをしていました。それはなぜでしょう」とか。もっと色をつけるなら、「数学の本は毎日泣き暮らしていました」「数学の本は苦渋の日々を送っていました」とか。これはやりすぎかな。「数学の本は気が滅入って仕方ありませんでした」とか? もっと言えば、bookを「教科書」とか「参考書」にするといいかも。

しかし、これは「良い訳にするため」というよりも、そもそも英語からこう変えた方がいい、という提案になっているかも。ただ、仕事をするときにもそういったケース(=原文がイマイチすぎて、あちこち補ったり、最悪の場合、変更しないと日本語の商品として成立しない)に当たることはしばしばありますので、「自分が元原稿の書き手だったら、読者に受け入れてもらうためにどう表現するか」を常に考える癖をつけておくことは必要かなと思います。読者への印象を考慮するなら、「数学」を「算数」に変える手もありでしょうか。

2行目は、基本的にGoogleとDeepLのどちらかでOKですね。

しかしこの課題はちょっと簡単すぎましたので、もう一つ挙げておきます。これ、わたしは正直言ってお手上げです。AI諸氏もダメダメ。このおもしろさを伝えられる訳文、ぜひ考えてみてください(文芸翻訳を目指している方は、何とかできないとまずいかもですね〜)。

【本日の課題2】
Two antennas met on a rooftop, fell in love, and decided to get married. The wedding wasn’t much, but the reception was excellent!

【Google翻訳氏】
屋上で出会った2つのアンテナは恋に落ち、結婚を決意した。 結婚式は大したものではありませんでしたが、披露宴は素晴らしかったです!

【DeepL氏】
2本のアンテナが屋上で出会い、恋に落ち、結婚を決めた。結婚式は大したものではなかったが、披露宴は素晴らしいものだった!

※最後のreceptionが「披露宴」と「受信状態」のdouble meaningになっているのだろうと思います。

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記事を書いた人

土川裕子

愛知県立大学外国語学部スペイン学科卒。地方企業にて英語・西語の自動車関連マニュアル制作業務に携わった後、フリーランス翻訳者として独立。証券アナリストの資格を取得し、現在は金融分野の翻訳を専門に手掛ける。本業での質の高い訳文もさることながら、独特のアース節の効いた翻訳ブログやメルマガも好評を博する。制作に7年を要した『スペイン語経済ビジネス用語辞典』の執筆者を務めるという偉業の持ち主。

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