TRANSLATION

第85回 決算短信①

土川裕子

金融翻訳ポイント講座

こんにちは。今年2月、東京証券取引所はプライム市場に上場する企業を対象に、決算情報や適時開示情報を英文で開示することを義務づける旨を発表しました(2025年4月から)。3月には、日本取引所グループが英文開示を支援するための特設サイトを開設し、様々な開示様式例の公開を始めました。

英文開示が義務化されるとなれば、翻訳業務も大量発生するということで、翻訳業界はにわかに活気づいている…らしいのですが、英→日方向の翻訳ばかりしているわたしにはあまり関係ないなぁ、と傍観しています。それに、企業の決算情報などは「金融」じゃなくて実のところ「財務・会計」じゃない?という違和感もありつつ、やはりここでも取り上げざるを得まい、という結論に至りました(大げさ?)。

ということで何回かにわたり、上場企業に開示が義務づけられている「決算短信」の内容を英語と日本語で見ていこうと思います。ただ、わたしが日英翻訳をしていない関係上、「この日本語だったらこの英語」の類いの解説はほとんどできませんので、ご了承ください。

なおごく一部しか取り上げられないと思われますので、興味のある方は、以下のサイトから直接ダウンロードしてみてください。今回は、日本取引所グループのサイトにアップされている以下の資料を使いました。

英文開示様式例(通期第1号参考様式【日本基準】(連結))
※すぐにダウンロードが始まります。
決算短信・四半期決算短信作成要領等(日本語)

それでは最初から見て行きましょう。まずはタイトルです(日付がMM DD, YYYYになっているところは、分かりやすいように年度末の日付を入れておきました)。

●Consolidated Financial Results for the Fiscal Year Ended March 31, 2024 (Under Japanese GAAP)

Fiscal Year Endedはよく見られる表現で、海外企業の開示資料では「2024年3月31日に終了する会計年度」または「2023年度(2023年4 月~2024年3月)」などと訳されます。しかし日本の場合、決算期の表現は、例えば2024年4月1日開始、2025年3月31日終了の企業であれば、「2025年3月期」。つまり「最後の年月+期」で表現します(海外企業でこの表現にしているケースは見たことがありません)。

また日本企業は、創設年などから起算して何年目かで年度を示す慣習があり、例えばトヨタ自動車の2023年4月~2024年3月は「第120期」に当たります(トヨタの創設は1937年なので数字が合いませんが、昔の日本企業は盆暮れ(!)の2回決算を行っていたそうで、その関係かもしれません)。ただ、日本企業の英語資料にこの手の数字が載っていることはあまりないように思います。

Consolidated Financial Resultsは、「連結」つまり親会社のみならず、国内・海外の子会社や関連会社まですべて含めた決算を言います。親会社のみの場合は「Standalone Financial Results(単独決算)」です。

なお参考情報ですが、資本金等で見て規模の大きな会社は、決算書類について会計監査人による監査を受ける必要があり、その監査を経た書類をAudited Financial Results、未監査のものをUnaudited Financial Resultsと言います。

GAAPはGenerally Accepted Accounting Principles。きちんと訳すとすれば「一般に公正妥当と認められた会計原則」のことで、米国GAAP(米国会計基準)、日本GAAP(日本会計基準)などと通称されます。

と、これが上記英語の日本語解釈になりますが、では訳出される前の日本語と英語を改めて並べて見てみましょう。

●2024年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)
●Consolidated Financial Results for the Fiscal Year Ended March 31, 2024 (Under Japanese GAAP)

日本語はなんともすっきりしていますね。辞書で「決算短信」を調べると、earnings digestやらearnings summaryやらの訳語が出てきますけれども、英語では「(連結)」部分と合わせてConsolidated Financial Resultsにしたということなんですね。なるほど。

「日本基準」もUnderとGAAPを入れているところは非常に参考になりますね。うっかりJapanese standardなどとしないように気をつけなければ。

なんと、タイトルだけでこんな量になってしまいましたので、今回はここまで。この先どうなるかまったく分かりませんが、少なくとも次回はこのテーマを続けるつもりでおります。

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記事を書いた人

土川裕子

愛知県立大学外国語学部スペイン学科卒。地方企業にて英語・西語の自動車関連マニュアル制作業務に携わった後、フリーランス翻訳者として独立。証券アナリストの資格を取得し、現在は金融分野の翻訳を専門に手掛ける。本業での質の高い訳文もさることながら、独特のアース節の効いた翻訳ブログやメルマガも好評を博する。制作に7年を要した『スペイン語経済ビジネス用語辞典』の執筆者を務めるという偉業の持ち主。

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