TRANSLATION

Vol.12 翻訳中毒?

ハイキャリア編集部

翻訳者インタビュー

[プロフィール]
江口佳実さん
Yoshimi Eguchi
神戸大学文学部卒業後、株式会社高島屋勤務。2年の米国勤務を経験。1994年渡英、現地出版社とライター契約、取材・記事執筆・翻訳に携わる。1997年帰国、フリーランス翻訳者としての活動を始める。現在は翻訳者として活動する傍ら、出版翻訳オーディション選定業務、翻訳チェックも手がける。

Q. 英語に興味を持ったきっかけは?

母が自宅で英語塾を開いていたんですよ。Richard Scarryの絵本や、大きな辞書に囲まれて育ちました。中学1年生から、母の教室に生徒として通い始め、高校3年生までしごかれました(笑)。お陰で、学校では英語で苦労したことはありませんでした。

Q. 大学卒業後、語学の道に進もうとは思っていなかったようですが。

全く考えていませんでした。英検も「就職活動の時に何か資格を」と思って準一級を取ったぐらいでしたので。高島屋の社内研修制度に、米国店研修プログラムがあったんですよ。2年間、社費で海外にいけるなんてこれはいい! と思い、選抜試験を受けることにしました。全て会社負担なんて今では考えられないと思いませんか?
今までにも、旅行で海外に行ったことはありましたが、長期滞在したのはこれが初めてでした。最初の1年は語学学校で勉強し、翌年はNYの高島屋で働きました。

Q. 渡英がきっかけで翻訳者を目指すことに?

帰国後も、高島屋で働いていたんですが、夫がロンドン勤務になったんです。思い切って会社を辞め、夫と一緒にイギリスへ渡りました。
せっかく海外にいるのだから何かやろうと思い、学校に通い始めました。ちょうどこの頃なんですよ、翻訳をやってみようと思ったのは。どこにいてもできる仕事って何だろうと思ったときに、翻訳のことが思い浮かんだんです。通信教育で半年間勉強しました。当時は、今ほど翻訳コースの種類もなかったので、私が受けたのは、出版翻訳コースだったと記憶しています。

Q. ライターとしても活動されていたと伺いましたが。

学校に通っていたといっても、夏休みなど長期休暇があるわけです。暇だなぁと思っていたところ、たまたま声をかけて頂いたのがきっかけで、英国在住日本人向けの日本語誌編集のお手伝いをさせて頂くことになりました。新聞から記事をいくつかピックアップして、日本語に要約するんです。大変だったのは、日本語の処理。単に日本語に訳すのではなく、日本語のスキルが要求されるわけです。新聞特有の表現も勉強させて頂き、非常に貴重な経験でした。

Q. 江口さんが考える、翻訳の面白さとは?

多分、普通の人よりも言葉に対する関心が強いのかもしれません。小学校の時に、毎日「お話帳」を書かされたんです。日記形式で、自分の思ったこと、感じたこと、その日起こったことを、1行でもいいから書いて先生に提出するんですが、書く訓練にもなるし、言葉への興味もこれで高まったのかなと。今は書くことを仕事にし、しかも外国語を別の言語に置き換えているわけですが、何時間机に向かっても全く苦にはなりません。とにかく「発見」の多い仕事です。自分が今まで知らなかったことを、翻訳を通して教えて頂いているような感じがするんです。何とも奥が深い仕事です。

Q. ご専門は法律関係だとお伺いしましたが。

ロンドン滞在時、ロースクールに通っていたんですが、毎日が発見の連続でした。例えば、日本だと日本国憲法が、アメリカには合衆国憲法があるじゃないですか? イギリスには法典として文章になった憲法が存在しないんですよ。不思議ですよね! 法律も、1700年代に王立裁判所が○○という判決を下したから、それに従ってこうしましょうという具合です。根本的に国の作られ方が違うんですよ。目から鱗でした。ノルマンコンクエストからずっと繋がっているんですよね。これって本当にすごいことだと思います。
法律なんて勉強したことありませんでしたし、ロースクールに行こうと思ったのも、数字は得意じゃないし、金融もダメ、コンピュータでもない、機械でも化学でもないと考えた結果、法律にいきついただけなのですが。一歩踏み出すと世界が変わるものですね!

Q. 現在の1週間のスケジュールは?

毎日翻訳です。家事や子供との時間もあるので、空いた時間を見つけては細切れに翻訳しています。常に時間との戦いなので、「あぁ、もうだめ!」となったら、旅行に出かけます(笑)。自宅にいると、ついつい仕事を請けてしまうので。私の悪い癖なんですが、頼まれると断れないんですよ。高島屋時代に営業をやっていたこともあり、エージェントの「仕事を頂く大変さ」と、「外注する大変さ」がわかるんです。コーディネーターの方が、クライアントと私たちの間に入って、苦労していらっしゃるのが想像できてしまうんですよね。金曜の夜にお電話を頂いた時などは、「これを私が断ったら、この人はまた別の翻訳者を探さないといけないんだろうな」と思うと、断るに忍びなくて。結果、「あぁ、またやってしまった」とうなだれることになり、夫には「そんなこと言うんだったら、受けなきゃいいじゃん」と言われ、ここでまたバトルが始まるんですけれども(笑)。

Q. ご趣味は?

最近ちょっと体力づくりをと思い、去年からテニスを始めました! 運動不足のせいか、とにかく肩こりがひどかったんです。見かねた友人に誘われ、テニススクールに入りました。始めてみると生活にメリハリもできるし、気分転換にもなっていいですね。

Q. 翻訳者を目指している方へのメッセージをお願いします。

日本語ありきです。日本人で、日本語を母国語としている方が、他言語から日本語へ翻訳する場合、基本は日本語です。実は、あるエージェントの出版翻訳オーディション選定委員をやっているのですが、応募作品を読む度に、目を疑いたくなるような日本語が多くて驚くことがあります。ですます調で書き始めているのに、いきなり、断定調になったかと思えば、べらんめい調になったり、動詞の使い方が間違っていたり……。普段何気なく話している言葉でも、いざ文章にして形にするとなると、大変な作業なんですよ。きちんとした日本語にして、第三者が読んでも英文のニュアンスを正確に伝えるような仕上がりにしなければならないんです。そのためには、日本語なんですよ。今は、ブログが流行っていますが、日常的に思ったことをちょっと書きとめる癖をつけるといいと思います。

<編集後記>
辛口で、スピード感ある江口さんのトークに、1時間笑いっぱなしでした。常に頭が高速回転しているようなイメージです!

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記事を書いた人

ハイキャリア編集部

テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

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