TRANSLATION

第178回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート㉑

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

Yさんには、フィードバックを基に試訳を修正していただきました。すると、ぐんと読みやすくなりました。これなら編集者さんにも読んでもらうことができるでしょう。

これで持ち込みの用意は整ったのですが、Yさんはさらに2章分の試訳も用意してくれたのです。その理由は、原書の構成に関係しています。本書で扱われている2つのテーマがあり、第2部の第5章から第9章でひとつ目のテーマを、第3部の第10章から第16章でふたつ目のテーマを扱っているのです。そこでYさんは、第2部と第3部から、それぞれ1章ずつ準備してくれたのでした。こうすることで全体像もつかみやすくなりますし、5章分の試訳の用意があることは、出版社側にとっての安心材料になるでしょう。

持ち込み先については、旧版の翻訳書が30年ほど前にA社から出ているため、まずはA社にあたってみることにしました。とはいえ当時の担当編集者さんはおそらくもういらっしゃらないでしょうし、A社の出版物の傾向も当時からはかなり変わっているようです。ただ、医師が著者の作品も刊行されているので、医師であるYさんは、出版社からすれば著者候補や作品の監修を依頼できるかもしれない相手になります。企画を検討してもらえる見込みはあるのではないでしょうか。

A社の公式サイトにお問い合わせ窓口があるので、そこからアプローチすることにしました。Yさんは最初の印象が極めて重要であると考え、「ファーストコンタクトとしては、いきなりできるだけ多くの情報を盛り込んだほうがよいのか、それとも、最初は手短に挨拶程度にしておいたほうがよいのか」と悩みました。

A社のお問い合わせフォームには、2000文字まで入力できるようなのですが、「最初からあまり多くの内容を詰め込んでしまうのは担当者さまを戸惑わせることにもなるような気がします」というYさん。自分なりの文章を考えたので、無礼な印象や、情報量の不足など、何か問題がないか確認してほしいとご依頼をいただきました。

拝見した文章には、「出版翻訳したい原書があること」「原書の概要」「A社から刊行したい理由」「自分が医師であること」「原書の内容への理解があること」「企画書と試訳の用意があること」「A社でご検討いただきたいこと」が過不足なくまとめられていました。

私がお問い合わせ窓口から持ち込む場合も、同じような情報をまとめてお送りします。Yさんの場合は医師であることを記載しますが、翻訳家や志望者の場合は、翻訳に関する実績を記載します。要は、「信頼に値する人物ですよ」ということをアピールするのですね。

早速コンタクトを取ったYさんでしたが、2週間経過しても、まだ反応がありませんでした。

「今回はご縁がなかったと考えるべきでしょうか? それとも、一度リマインドを入れたほうがよいでしょうか?」とご相談がありました。Yさんの企画のジャンルに該当する担当者がいないために、扱いを決めかねているのかもしれないと考え、リマインドすることをおすすめしました。

そこでYさんがリマインドすると、資料を送ってほしいとのご連絡がありました。企画書と試訳をお送りしたYさん。その後の進捗については、また動きがあり次第お伝えしていきますね。

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Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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