TRANSLATION

第175回 翻訳される立場になってわかること

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

出版翻訳家デビューサポート企画をレポートしている途中ですが……実は、拙著『心と体がラクになる読書セラピー』を翻訳していただきました! 中国語繁体字版が発売されています。

普段は自分が翻訳する立場ですので、翻訳される立場になって、はじめてわかることがあります。翻訳された自著を受け取る気持ちは……

「ほお~」

のひとことに尽きます(笑)

「ほお~、これが例のあれですな」と、噂の逸品に遭遇したおじいちゃんのようなリアクションになってしまうのでした。自分の本という実感もあまりなく、パラレルワールドに似た不思議な感覚です。

自分が翻訳していないのに出来上がっているなんて……靴屋さんが寝ている間に小人さんたちが素晴らしい靴を仕上げてくれたというグリム童話を思い出しました。手がけてくださった翻訳家さんたちは、小人さん……いや、もっとファンシーでキラキラした感じの……妖精!? 著者からすると、翻訳家はこんなにありがたくも素敵な存在なのかと気づきました。

しかも、著者印税は前払いなので、発売前に印税をいただけるんですよね。普段なら大変な思いで翻訳して、発売後にようやく印税が入るはずが、まだ本は姿かたちもないのにしっかりお金だけはいただけてしまうという……。

「なんにもしてないのに、私だけすいません~」

という気分になります。いや、もともとのコンテンツを提供しているので、なんにもしてないわけじゃないんですが。仕事もやってもらって、お金ももらって、ひとりだけ好き放題している気がしてくるんですよね。

著者として翻訳書をきびしくチェックするかというと、そういうこともありません。今回の本が実用書だというのも要因のひとつでしょう。もしこれが小説や詩だったら、どれだけニュアンスや雰囲気を伝えてくれているのか確認したいと思ったでしょうし、翻訳のオファーがあった時点でそう申し出ていたでしょう。だけど実用書だと、現地の読者に内容がちゃんと伝わって役立てていただければいいという基準になります。現地のニーズに合わせてローカライズされることにも抵抗は覚えません。

その言語がどれだけ自分から遠いかも関係すると思います。もし翻訳されたのが英語やスペイン語だったら、自分で読み込んで確認したでしょう。でも、中国語繁体字は、読めないんですもの……ただ、ただ、「ほお~」です(笑)

そう考えると、主に英語圏の著者の場合、日本語は遠い言語でしょうから、きっと今回の私のように「ほお~」と感心しながら、ありがたくも素敵な妖精さんに感謝をささげてくれることでしょう。

※新刊『古典の効能』が発売になりました。

『心と体がラクになる読書セラピー』が発売中です。

※この連載を書籍化した『翻訳家になるための7つのステップ 知っておきたい「翻訳以外」のこと』が発売中です。電子書籍でもお求めいただけますので、あわせてご活用くださいね。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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