TRANSLATION

第202回 出版できる人、できない人

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

出版翻訳したいと思って努力をしてきて、実際に出版できる人とできない人がいます。そこには、どんな違いがあるのでしょうか?

出版にはタイミングや運もありますので、いくら企画書がよくできていて翻訳のレベルが高くても、出版できるとは限りません。練られていない企画書で、翻訳もいまいちでも、出版社の開拓したい路線に当てはまったり、編集者さんの興味と重なったりして、企画が通ってしまうこともあるでしょう。

そんな要素も加味して考えた時、出版できる人とできない人の大きな違いのひとつは、ものの考え方だと思うのです。企画を持ち込んで「無理です」と編集者さんから言われた場合に、「そんなはずはない」「どこかに突破口があるはず」と思えるかどうかが明暗を分けるのではないでしょうか。

「無理です」と言われると、ほとんどの人は「無理なのか……」と落ち込んでしまいます。たいていは企画と出版社のマッチングの問題にすぎないのに、企画自体がどこの出版社にも受け容れてもらえないと捉えてしまうのです。さらに、「企画を否定された」=「自分を否定された」と思い、「やっぱり自分はダメなんだ」と自己否定モードになってしまいます。

だけど「そんなはずはない」「どこかに突破口があるはず」と思える人は、「何が原因で断っているんだろう? 何をどう変えればいい?」「これが無理でもこっちならどう?」という具合に、うまくいく方法を見つけ出すことができるのです。

ある著者さんは、企画書を出版社に送ってもまったく返事がもらえずにいました。そこで、「美人作家」という肩書をつけて企画書を送ったところ、すぐに編集者さんからご連絡があり、会うことができたそうです。ご本人は美貌に自信があるというよりもトークに自信があるタイプだったので、会うことができればトーク力で企画を通せると見込んでいたとか。そんな裏技でも、実際にそれで出版に結びつけることができたのですから、何でも試してみるものですね。

「美人翻訳家」「イケメン翻訳家」の肩書で反応があるとは保証できませんが……少なくともキワモノとしては認知していただけるでしょう(笑)。学術書など、まじめさをアピールしたい分野ではマイナスに作用しかねませんが、自己啓発書など、目新しいものや変わったものを肯定的に捉える分野なら、仕事をつかむきっかけになるかもしれません。

出版できる人とできない人の大きな違いのもうひとつは、続けることができるかどうかだと思います。最終的に出版する人というのは、結局は出版するまで続けてきた人なのです。

すべてのプロセスがとんとん拍子に進むわけではありませんし、実現までには紆余曲折があり、エネルギーも要します。すると、あきらめてしまうケースが多いのです。何かをあきらめること自体は悪いことではありませんし、自分なりに納得したうえでの判断ならいいのですが、やりたい気持ちがあるのに落ち込んであきらめてしまうのは、とても残念なことですよね。

出版という目に見える形で報われるのは、それまでにやってきたことの氷山の一角のようなものだと思います。そういう形で報われるには、それに相当するだけの蓄積があるのです。「何も咲かない寒い日は下へ下へと根をのばせ。やがて大きな花が咲く」と言われますが、出版という花が咲かない時には、根っこのほうに力を注ぐことを意識するといいでしょう。

気をつけたいのは、落ち込んで精神的に狭いところに入り込んでしまうことです。そうするとエネルギーの流れも悪くなってしまいますし、せっかくいい話があっても、それに気づけなくてしまいます。どんよりした雰囲気を発してしまうと、一緒に仕事をしたい人ではなくなりますから、いい話も紹介してもらえません。悪循環にはまってしまうのですね。

だから、うまくいかない時はエネルギーの流れを整えることを意識してみてください。それは生活をきちんとすることであったり、身の回りを整えることであったりします。「何が何でもこの企画を通さねば!」とがむしゃらになっている時よりも、むしろすっかり忘れて日々の生活に充足しているような時に、思いがけず話が動いていくものですよ。

※この連載を書籍化した『翻訳家になるための7つのステップ 知っておきたい「翻訳以外」のこと』が発売中です。電子書籍でもお求めいただけますので、あわせてご活用くださいね。

※出版翻訳に関する個別のご相談はコンサルティングで対応しています。

『心と体がラクになる読書セラピー』が発売中です。日本読書療法学会の新しいサイトとあわせてご覧ください。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

END