第293回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート65
出版翻訳家デビューサポート企画第2期生のレポートをお届けします。前回に引き続き、海外在住のMさんの持ち込みのご様子をお伝えします。
Mさんは、ノンフィクション絵本と絵本パックの他に、新たに自然科学系の絵本にも取り組んでいます。こちらの企画書と試訳が完成したので、拝見しました。
本書では、とある謎を巡って、おじいさんと女の子が意見を交わします。自然科学絵本なので、おじいさんが女の子に正しい知識を教え諭す……といった教育的な内容を想像したのですが、そうではありませんでした。役割設定が画一的でないところも魅力的でしたし、見えないものに思いを馳せる態度が描かれていることにも好感を持ちました。自然科学絵本でありながらも、ファンタジー的な色彩の割合が大きいのも素敵だな、と感じました。
Mさんにお伝えすると、同様の点にこの国の絵本ならではの魅力を感じていたものの、「ファンタジー」という言葉がなかなか思いつかなかったので、企画書に反映したいとのことでした。よく知っている言葉で、普段使っていても、いざ自分が表現しようとした時に出てこないことはありますよね。しっくりくる言葉が見つかると企画書にも芯が通るので、思いつかない時には、まわりの方たちの力を借りてもいいかもしれません。読んだ感想を聞かせてもらうと、何気ないひと言の中に、本質を突いた表現が見つかることもありますよ。
試訳を拝見して気になったのは、登場する動物になじみがないことでした。「これは何だろう?」と思ったのですが、そこは絵本なので、絵を見れば「ああ、この動物のことか」とわかるんですよね。これなら読者である子どもにも伝わりやすいので、問題はないと判断しました。
もうひとつ気になったのは、とあるカタカナの言葉でした。これは、もしかしたら対象年齢の子には難しいのかもしれないと思いました。少し意味が変わっても、類似の日本のものに置き換えてもいいのかもしれません。ただ、このあたりは企画通過後に編集者さんにご相談してもいいように思いましたので、持ち込みの際はこのままでいいとMさんにはお伝えしました。
企画書のほうで指摘させていただいたのは、文章のねじれです。「本書がこのような高評価を受けるようになった理由には、第一に、……」という文章があったのですが、そこで理由が挙げられておらず、文章の始まりと終わりがきちんと対応していないため、読みづらくなってしまっていました。
フィードバックを受けて、Mさんは必要な修正をし、持ち込みを開始しました。持ち込み先はA社です。A社には絵本パックとノンフィクション絵本を見ていただいていました。ノンフィクション絵本のお断りをいただいた際に、現在別の絵本も翻訳中であり、完成したら持ち込みたい旨をお伝えして、ご快諾いただいていたのです。お断りのお返事だと、そこでもうおしまいと捉える方が多いですが、たとえお断りでも、こうして次につないでいくことができるんですよね。そう考えると、お断りも、関係性を築くためのはじめの一歩なのでしょう。
Mさんは、A社の編集者さんと何回かやり取りをさせていただいて、返信のペースなどが似ているためかストレスをまったく感じず、ぜひお仕事を一緒にさせていただきたいと思っているそうです。
まだご連絡はないものの、もともと時間がかかるかもしれないということでしたので、引き続き待っているところです。三度目の正直となるといいですね!
さらに、Mさんは本書の著者による別の作品も、持ち込みの準備を始めています。こちらも自然科学絵本になります。次回ご紹介しますね!
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