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プーチン再登板

さるるん@ロシア

通訳・翻訳者リレーブログ

5月7日、プーチンがロシアの大統領に返り咲きました。
大統領の任期は今回から6年に延びたので、何もなければ、少なくとも2018年までプーチンが政権を握ることになると思います。

4年前に大統領の任期が切れたときには、「辞めないで!」の声が多かったのに、今や大統領就任式前日にモスクワで5万人規模の反プーチンデモが行われる状況。プーチンは「国父」のような存在になるつもりでいたはずなのに。4年でこんなに変わるとは・・・。

2008年5月に大統領を退任してから、何が変わったのか。
私なりに考えてみました。

ひとつは、2008年9月のリーマンショック以降のロシア経済。
プーチンの1〜2期目在任中は、原油価格の高騰に支えられて、ロシアの実質経済成長率7〜8%台で推移してきました。それが、リーマンショックに端を発する世界金融危機で原油の需要が落ち込み、2008年7月には1バレル150ドルに達する勢いだった原油価格があっという間に30ドル台に暴落。また、株式市場も欧米資金の流出により暴落(これは、金融危機の影響もありますが、ドルを基軸通貨の座から引き下ろすために、中国、イランなどと組んでドル外しを始めたことへの制裁的な動きもあったように思われます)。そのために、2009年にはマイナス成長に転じました。2010年からは成長率4%台前半で推移しています。インフレ率は平均6%台と言われていますが、実感として生活必需品(特に食品や交通費)の値上がり率はもっと高いと思います。お給料は増えないのに、物価は上がるので、当然、生活は苦しくなり、不満が募ります。

ちなみに、ロシア国民の所得税は13%。その他に、給与の30%に相当する社会保険料(内訳は、年金基金22%、社会保障基金2.9%、連邦医療基金5.1%)を国や地方に納めることになっています(直接の支払人は雇用者)。にもかかわらず、年金は雀の涙だし、無償医療は崩壊状態。無償の病院に行った知人は、「予約を入れて1週間後に来い」と言われたそうですし、すぐに手術が必要な場合でも、無償の患者は数ヶ月も順番待ちをしなければならないと聞きます。一方、有償の医療はバカ高くて、とても庶民が利用できるものではありません。もっとも、これはプーチンの1〜2期目でもそうだった慢性的な不満ですが。

二つ目は、プーチンが与党「統一ロシア」の党首になったこと。
プーチンは、2007年12月の下院選前に党首就任を受諾すると発表し、2008年5月の大統領退任とともに党首になりました(今回の大統領就任をもって辞任していますが)。「統一ロシア」の不正や権力濫用は国民が周知するところ。外国人の私にはわかりませんが、生活圏の至るところに与党の関与があり、不正が目に余るのだそうです。プーチンが、「統一ロシア」を影で操るどころか、表に立つ党首になったことはマイナスに影響したのではないかと思います。

反体制デモの引き金になったのは、選挙の不正でしたが、ロシアでは「不公正な選挙」というのは、単に不正な投票・開票を指すのではありません。選挙制度そのものが、与党優位を維持するための不公正な仕組みになっています。たとえば、下院の場合、得票率7%ルールによる政党の足切りがあって、小政党は議席を得られない仕組みになっています。また、昨年12月の下院選では、本物のリベラル野党である国民自由党(パルナス)が法務省に政党登録を認められず、選挙に参加できませんでした。大統領選でも、リベラルな人々が支援する候補者の立候補が認められませんでした。投票する以前に、選択肢がなくなってしまうのです。

最後に、一番の変化は、ソーシャルメディアの発達。
デモの動員にもフェイスブックなどが使われましたが、何よりも人々が容易に現体制の“真実”(あえてquotation mark付きにしておきます)を知ることができるようになったことが大きいと思います。もろもろの不満も、ソーシャルメディアで共有されたのかもしれません。

7日の大統領就任式では、メドベージェフもプーチンも、スピーチで「民主主義」、「民主的」ということばを強調していたのが印象的でした。

そうそう、昨日のコメディアン4人によるトーク番組で、こんな会話がありました。

 「フランスの大統領選で、サルコジが負けたね。大統領を辞めたら、どうするんだろう?」
 「何して過ごすんだろうね?」
 「何言ってんだよ。大統領を辞めたら、やることはひとつしかないじゃないか。」
 「えっ、何をするの?」
 「首相になるんだよ!」

ロシア人が大好きな政治ジョークでした。

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記事を書いた人

さるるん@ロシア

米系銀行勤務後、米国留学中にロシア人の夫と結婚。一児の母。我が子には日露バイリンガルになってほしいというのが夫婦の願い。そのために日本とロシアを数年おきに行き来することに。現在、ロシア在住、金融・ビジネス分野を中心としたフリーランス翻訳者(英語)。

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