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悩み「だらけ」

仙人

通訳・翻訳者リレーブログ

先週CMコピーの話をしましたが、CMなどのキャッチラインの翻訳って本当に難しいですね。英語から日本語にするにも、その逆にしても、言葉としていろんな意味で完成された語のニュアンスを全て伝えるのは、基本的には不可能です。けれど、最近はコストの面でも、また全世界で同じブランドイメージを築き上げるためにも、同一CMを使うことが多く、広告代理店などで通翻訳される方は本当に大変だと思います。
翻訳者でなくて、自分が広告主サイドにいた頃、代理店の翻訳者から見事な訳が上がってくると感心したり、逆にどうしてもニュアンスが伝わっていないように思えて自分で訳してみたりして(イヤなクライアントですよね!)いました。すごくいいコピーなのに、訳のニュアンスが伝わらないため本社から予算の許可が下りなかったりするので、必死だったのです。
もう二十年ぐらい昔、とある食品を担当していた頃の話。もう時効だと思うので。競合品に比べてチョコレートコーティングの質が良いため、ミルクをかけると見事にチョコミルクになるという製品のCMで「いいチョコだらけ」というコピーを代理店が開発してきたことがありました。私はすごく気に入ったのですが、上司(イギリス人)にも、その上のアジアパシフィック担当副社長(カナダ人)にも、どうしても「だらけ」のニュアンスが伝わらず、代理店の翻訳者と一緒に訳を考えました。最終的に”Totally chocolated around”という無茶な訳を考え出し(でも実は良い訳だったと自画自賛!)、OKをもらったことがありました。今でも二ヶ国語放送のニュースなどで「だらけ」という言葉が出てくると、どんな訳をするのかぴぴっと耳を立ててしまいます。
案外、原文からすっかり離れた訳にするとよくわかったりするので、現在翻訳者としての私は原文の「意味合い」内容を日本語・英語で言うとどうなるか、と一から考えるようにしていますが、でも、やはりかっこいい原文なら訳であっても同等の強さを持つ、かっこいい文にしたいと思ってしまいます。そうするとすごく無駄に悩む時間が増えたりするのですが、結局そうやって、言葉にああでもないこうでもない、と悩むのが好きなのかもという気もします。

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記事を書いた人

仙人

大学在学中に通訳者としての活動を開始。卒業後は、外資系消費財メーカーのマーケティング分野でキャリアアップ。その後、外資系企業のトップまでキャリアを極めた後、現在は、フリーランス翻訳者として活躍中。趣味は、「筋肉を大きくすることと読書」

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