INTERPRETATION

第363回 計画倒れにならないために

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

私は小学校2年生の秋にオランダへ引っ越しました。よって日本で夏休みを過ごしたのは2回だけですが、今でも温かい思い出として残っています。

私が子どもの頃の夏休みと言えば、毎日ラジオ体操があり、せっせと早起きしては参加していました。思えば体操の後にハンコを押してもらうこと、そして夏休みの終わりにすべてハンコが押されていれば学用品をいただけたのが子ども心にうれしかったのですね。確かノートだったと記憶しています。その当時の日本はまだ今ほど豊かではありませんでしたので、そうした小さなプレゼントも子どもにとっては大きな意味を持っていたのです。

夏休みは他にも大量の宿題が出ました。朝顔の観察や絵日記、工作に絵画、読書感想文などです。今でこそ私は文を書くのが好きですが、当時は作文が大の苦手でした。

帰国後に編入した中学校でも夏休みには読書感想文があり、本当に苦戦しました。文を書くことを好んだ母に見てもらったこともあります。あまりにもあらすじが延々と続く私の文章を読んだ母は、「感じたことを書けば?」と一言。内心「え?アドバイスはそれだけ?」と思った私は反発心を抱いたものでした。仕方なく破れかぶれで自分の思ったこと「だけ」を書き、再び母に見せたところ、大いに褒めてもらえました。これも母なりの戦略だったのかもしれません。

小学校時代に話を戻しましょう。

小1、小2の夏休みには宿題の中に「夏休み中のめあて」なるものがありました。毎日やることを自分なりに決めて、それを実行していくというものです。教育的観点からすれば、ダラダラと過ごすことなく、有意義に日々を送ってほしいというものなのでしょう。

当時の私は「めあて」記入欄があると、なぜか俄然張り切る子どもでした。あれもやろう、これも達成したいとばかり、どんどんどんどん「やるべきこと」を書き出していったのです。

6時起床、ラジオ体操、朝顔の水やり、家の手伝い、午前中は勉強、午後は友達と遊ぶ、夕方は家の手伝い、入浴、8時就寝・・・という具合に、思いつく限りの善行(?)を書き連ねたのでした。

休み開始直後は本人も意気込みがあります。達成するたびに丸をつけては喜んでいました。けれども、やはり欲張りすぎるのは良くないのですよね。数日たつにつれて達成できる項目は目に見えて減り、かろうじて達成できたのは、「ノート欲しさに参加したラジオ体操」のみとなりました。

今にして思えば、エアコンすらない当時、それでもラジオ体操だけは頑張ったのですから、良かったのではと思います。けれども人間というのは、決めたこと、とりわけ書き出したことが達成できないというのは、自分の弱さをまざまざと見せつけられているように思えてしまうのですよね。幼心にも「うーん、今日もできなかった」という思いばかりがつのってしまい、自分にとっては不完全燃焼の夏休み(x2回)となったのでした。

そこから得た教訓。それは「やること」を欲張らないことです。

これは英語学習でも言えることです。「よし、学びの秋こそちゃんと英語を勉強しよう!」という思いは素晴らしいものです。けれども、テキストや参考書、アプリをどーんと並べ、さらに移動中はiPodで英文視聴、電車に乗れば英文雑誌の記事閲覧などとしていると、いずれ煮詰まってしまいます。

取り組んでいること自体が楽しいのであれば、必ず続きます。けれども義務感にかられてあれもこれもと手を広げてしまうと、息切れした際のダメージが大きくなってしまうのです。

何事もほどほどに。
習慣化するまでは控えめにしておく。

遥か昔の小学校時代の苦い経験から導き出した私なりの教訓です。

さあ、いよいよ9月。秋が始まります。新シーズン開始に伴い、新たな目標を抱いておられる方もいらっしゃるでしょう。どうか実り多き日々となりますように。

(2018年9月4日)

 

【今週の一冊】

「鉄道駅スタンプのデザイン」関田祐市監修、青幻舎、2014年

この夏休み、自分なりに意識していたことが二つあります。一つ目はミュージアムめぐりです。日本にはいろいろな美術館・博物館があり、多様な展示が催されています。せっかくの長期休み。自分の関心あるテーマを追いかけようと思いました。今年の夏の私のキーワードは「戦争」です。過去を知ること、その知識に基づき、今を俯瞰することが放送通訳の仕事でも大事だと思ったからです。出かけた昭和館やしょうけい館では多くのことを学びました。

もう一つ、夏休み中にこだわったのは「駅スタンプ集め」です。毎年夏になると子ども向けにポケモンスタンプラリーが開催されています。スタンプを集めいくというのは、大きな達成感につながります。そこで私はポケモンではなく、駅の改札口に設置されている駅スタンプをせっせと収集することにしたのです。

集め始めるまではまったく意識していなかったのですが、都内だけでもたくさんの駅スタンプがあるのですね。郵便局の風景印同様、そのデザインも様々で、立派な芸術作品です。たとえば東京駅であれば二重橋が、有楽町駅のスタンプには歌舞伎座が描かれています。名所旧跡を知るには格好のアイテムです。JRだけでなく、都営地下鉄もスタンプを製作しており、サイズは紙コースターぐらいの大判です。こちらも見ごたえがあります。

今回ご紹介する一冊は、駅スタンプを集めたものです。全線・全駅ではないのですが、珍しい図柄や限定期間スタンプなども掲載されています。中でも興味深かったのは、エラースタンプ。製作段階でうっかり間違えてしまい、そのまま使われていたものです。たとえば1980年に作られた滋賀県・彦根駅と大阪府・森ノ宮駅にはお城が描かれています。ところが彦根城と大阪城の絵が逆になっていたのです。これはマニアの間では有名なのだそうです。

私は飛行機が好きなので、1934年の博多駅スタンプにも惹かれます。まだ第二次世界大戦前のもので、海軍飛行機が描かれています。福岡空港は博多駅のすぐ近くにあるのですよね。

巻末には「駅スタンプをきれいに押すコツ」というページもあります。私はもっぱら罫線入りメモ帳兼雑記帳に押印していますが、この欄を読み、せめてメモ帳は白紙にしようと思ったのでした!

Written by

記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学・順天堂大学非常勤講師。 上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。 ロンドンのBBCワールド勤務を経て現在はCNNj、CBSイブニングニュースなどで放送通訳者として活躍中。 NHK「世界へ発信!ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説を担当。 ESAC(イーザック)英語学習アドバイザー資格制度マスター・アドバイザー。 通訳学校にて後進の指導にあたるほか、大学での英語学習アドバイザー経験も豊富。 著書に「通訳の仕事 始め方・稼ぎ方」(イカロス出版、2010年:共著)、「英検分野別ターゲット英検1級英作文問題」(旺文社、2014年:共著)。

END