INTERPRETATION

第56回 読書の方法も進化する

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

外出先で必ず探すもの。それは本屋さんです。かつては駅前に個人経営の小さな書店がたくさんありました。しかしネットで本が買えるようになり、また、電子書籍も登場して世の中も変わってきました。そのせいか本屋さんはどんどん姿を消してしまい、代わりに大型書店がターミナル駅付近にお目見えしています。街の本屋さんを存続させていくためにも、できるだけ店頭で買うように私はしています。

私の場合、読書の仕方もライフステージに応じてずいぶん変わってきました。幼少期は一冊を読み終えてから次の本に取り掛かりました。大学時代には自宅にあった「日本文学全集」と「世界文学全集」を制覇しようと試みたものの、挫折。その代わり文学全集の目録片手に「『罪と罰』って読んだ?」「芥川は?」と両親の読書歴を聞き出すこともしました(両親は困惑していましたが)。私の父は文学全集を結婚当初に揃えたそうですが、当時はそうした全集を家に置くことが大きな意味を持っていたようです。

さて、現在の私はと言えば、仕事柄かなりの乱読です。買ってきて積んである本もたくさんありますが、最近は次の10点を意識しています。

1.書店に入ったら一通りの棚を見る
時間が許せばすべての棚を眺めるようにしています。たとえば医学や理系のコーナーで書名を見るだけでも、今どういう話題が旬なのかがわかります。

2.本棚から手に取ったら出来る限り買う
もちろんお財布と相談の上ではありますが、手に取ったということは何かその本が訴えていると思うのです。あとで買おうと思った時に限って、二度と再会できないこともあります。ですので、基本的には購入します。

3.つまらないと思ったら読むのを止める
どんなに大枚をはたいて買ったとしても、つまらないなと思ったらその時点で読むのを止めます。時間がもったいないからです。その代わり、パラパラと本に「空気を入れる」ようにして、ページだけは最後までめくります。

4.「がき」に注目
「まえがき」「あとがき」「著者の肩書き」に注目します。まえがきとあとがきを読むだけでも概要はつかめるからです。著者の肩書きを読むことで、著者の世代やこれまでの経歴などがわかります。

5.目次を「にらむ」
まえがきなどを読んだら次は目次をじっくりと眺めます。井上ひさしさんは「まるで泥棒が盗みに入る前にしっかりと状況を眺めるように」という表現で目次を読む大切さを唱えています。目次を通読することで本の内容はだいたい頭に入ってきます。

6.後ろから読んでみる
なぜかここ数年、私は雑誌やビジネス書などを後ろから読むようになりました。大きな理由は特にないのですが、その方がページをめくりやすいのと、何となく早く読めるような気がするからです。「前からでなければダメ」というルールがあるわけでもないので、最近はもっぱら後ろからです。

7.書き込み・ページ折りはもちろんOK
自分が買った本ですので、どんどん書き込んだりページを折ったりしています。あとで古本屋さんに売ろうなどと考えてしまったら、せっかくの本も知識として入って来ません。どんどん記入し、コメントも書き添えています。本との対話です。

8.印象的だった文を「一つだけ」転記
これまで私は読書ノートをつけていました。しかし時間がかかるので最近はお休みしています。代わりに読了後は書き込んだ個所をもう一度振り返ります。そしてその中から心に残った文を一つだけ選び、手帳に転記しています。ポイントは一つに絞り込むこと。そして手帳に記したら時々読み返すようにしています。

9.本は手放す
何度でも再読したいという本に出会えた時は本当に幸せです。ただ、そういう出会いは数年に一回あるかないかです。たいていの本は手放して、新しい本を本棚に入れられるようにしています。

10.読書を「つなげて」いく
一冊を読むとその中から何か自分のアンテナに引っかかることが出てきます。たとえば私の場合、作詞家・土井晩翠の本を読んだのを機に、「東北大学→林竹二(教育者)→西澤潤一(科学者)→井深大(ソニー)→神谷美恵子の妹・勢喜子」とつながっていきました。こうしてどんどん関連付けていく作業も楽しいものです。

本の読み方はみなさんそれぞれおありかと思います。何か一つでもみなさんの参考になれば幸いです。

(2012年1月30日)

【今週の一冊】

「ダムマニア」宮島咲著、オーム社、2011年

今回ご紹介するのはズバリ、「ダム」に関する1冊。実は昨年の夏休みに子どもたちと日帰りバスツアーに参加した。その際、立ち寄ったのが宮ヶ瀬ダム。どのダムも同じような構造なのだろうとそれまでは思っていた。ところが実際に内部を見学し、職員のお話を聞いてみると、奥が深い。さらに参加者全員に配られたのが「ダムカード」なるもの。「しおり?」と思いきや、別のお母さんが「あ!ダムカード!」と嬉しそうな声をあげる。聞けば、今やダムカードはマニアの間で収集の対象になっているとのこと。現地まで足を運んで初めて手に入るカードだけに、その価値も高いトレーディングカードなのだそうだ。

以来、私のダムへの興味は高まるばかり。それで読んだのが本書なのである。

著者の宮島さんは28歳で脱サラ。その後全国のダム巡りを始め、現在の目標は日本国内にあるダムおよそ2900基を制覇することだそうだ。ダムをこよなく愛する宮島さんの熱い思いが本書にはいっぱい詰まっている。写真も豊富。たとえば長野県にある南相木ダム。純白の堰堤は下から見上げるとその白さが輝いている。群馬県の四万川ダムは壁面がお城のよう。一言で「ダム」と言ってもそれぞれの表情があるのだ。

ダムの見学方法やダムめぐり必須アイテム、放流についてなど、全くの素人でもダムをいかに楽しめるかが本書には詳しく書かれている。宮ヶ瀬ダムを私たちが訪ねた際にはちょうど観光放流が行われ、水が壁面を勢いよく流れおりる光景は圧巻だった。放流に合わせて見学するのも楽しい。

ダムへの愛から「ダムカレー」なるものまで考案した宮島さん。東京の錦糸町にも提供する料理店があるらしい。いつか食べに出かけてみたい。

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柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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