INTERPRETATION

第406回 「話す」ということ

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

コミュニケーションを生業としている私にとって、いかにして相手に伝えるかということは最大の関心テーマです。

ただ、「伝える」と言っても、そう簡単にいかないことがあります。特に親子や夫婦などの家族であれば、「甘え」が前面に出てしまいがちです。「あえて言わなくても家族なのだし、わかってくれるはず」という思いがあるのでしょう。そうなると口数も「省エネモード」になってしまい、誤解が生じかねません。

話がややこしくなり、気まずくなり、でも後で冷静になってから改めて尋ねてみると、「なーんだ、イイタイコトはそういうことだったの?ならばあの時、そう言ってくれれば良かったのに」と思うこともあります。

「あたしんち」で有名な漫画家・けらえいこさんが作品の中で「口マメになることが大事」と述べていましたが、コミュニケーションで大切なのは、「くどいかな?」と思えるぐらい、丁寧に伝えることなのでしょうね。

ところでみなさんは英語学習や生活などにおいて問題や悩みに直面した際、どのようにして解決しますか?

最近はインターネットの掲示板も充実しており、そちらに書き込むということも増えているようです。私もそうしたサイトを覗くことがあります。

ただ、気を付けねばいけないのは、そのようなお尋ねの回答をどのように解釈するかです。もちろん、中には誠意あふれる答えもありますが、一方で厳しい文言が綴られているケースもあります。質問者にしてみれば、勇気をもって書き込んだことでしょう。それなのにこれほどキツイ一言だと、私なら余計落ち込んでしまいそうです。よって、私自身、そうしたサイトを読む際にはなるべく感情を揺さぶられ過ぎないよう気を付けています。

むしろ参考になるのは、プロの方が書いた記事や文献です。素人ノイズではなく、専門家が記していますし、出版物であれば編集者の目を経て世に出ています。そのような媒体の方がニュートラルに情報を得ることができるでしょう。

私の場合、このようにしてネットや出版物などを参考にすることが多いのですが、さらに和むのが「友達に話すこと」です。同じ業界の友人であれば、似たような立場からアドバイスしてもらえますので、解決策を見出しやすくなります。

一方、まったくの異業種の友人も私にとっては貴重なアドバイザーです。異なる業界にいる分、かえって中立的に物事を見てくれるのですね。友人にしてみれば、私のいる業界というのは完全に「???ワールド状態」です。よって、「良き聴き手」になって下さることが多いのです。ありがたいことだと思っています。

夏というのは、新年度・4月からの疲れがドッと出やすい時期です。しかもこの暑さです。みなさんもどうか疲労をため込まず、悩みごとなども「話すこと」を通じてリフレッシュできますように。

(2019年8月6日)

【今週の一冊】

「イラストで見る 昭和の消えた仕事図鑑」澤宮優・文、平野恵理子・イラスト、原書房、2016年

時代の移り変わりとともに、職種も変わっていきます。一説によれば、2040年になると今の仕事の8割ぐらいは消滅するそうです。通訳・翻訳業界を見てみても、近年は自動翻訳・通訳機の進歩が目覚ましいですよね。果たして「ヒトによる通訳」自体は生き残れるのかしらと私もつい考えてしまいます。

今回ご紹介するのは、昭和時代にあった職業についての一冊です。私は昭和生まれですが、私が子ども時代にすでに消えた職種もここには紹介されています。仕事と技術の進化というのは連動しているのだと改めて感じさせられます。

個人的に共感したのは「タイピスト」。最初に注目されたのは大正時代だったそうです。「タイピングの技術習得は、理解力、知力を必要とし、誰もができる仕事ではなく、一種のエリート職であった」(p216)という記述は、一昔前の通訳業と同一のような印象を受けます。さらに読み進めると、タイピストの収入は非常に高額であり、戦時中は「従軍タイピスト」としてクアラルンプールやボルネオに赴任した女性もいたそうです。

他にも「電報配達」「紙芝居屋」「新聞社伝書鳩係」など、たくさんの仕事が紹介されています。イラストを担当するのは絵本作家でもおなじみの平野恵理子さん。ほのぼのした絵を見ているだけでも和みます。

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柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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