INTERPRETATION

第80回 問題解決マニア

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

先日、経済評論家・勝間和代さんのセミナーへ出かけてきました。主催者は女性経営者関連の団体で、対象も企業家などでした。けれども幸いなことに申し込みを受理していただいたので、参加することができたのです。勝間さんの本はこれまでも何冊か読んできたのですが、直接拝見するのは初めてでした。

勝間さんはパワーポイントなどを用いず、要点だけが書かれた2枚のレジメに即してお話なさっていました。ご自身のキャリアの変遷、女性経営者はどのように歩めばよいのかといったことが中心でしたが、日本経済やマーケティング、世界情勢など、多岐にわたる内容で実に刺激的でした。

今回のレクチャーの中で印象的だったのは「問題解決マニア」という言葉です。勝間さんはコンサルティング会社出身で、その現場で「問題点は何か」「どうすれば解決できるか」という思考法を身につけられたのだと思います。それに基づき、ご自身も普段の仕事や生活の中で、問題の解決を図ることを重視しておられるのです。ご自分のことを「問題解決マニア」と評していらっしゃいました。私が思うに、勝間さんはご自分のことを、(1)冷静に分析する、(2)感情に流されず、自分自身を一つのプロダクトとして考える、(3)データなどを駆使して改善策を考える、ということを続けておられるのでしょう。

帰宅後、早速勝間さんのHPを見てみました。勝間さんは最近、調理家電に凝っているそうです。その中で、ある調理家電を用いて餃子を作ったことが綴られていたのですが、うまくできるまでずいぶん失敗したのだそうです。その際も、次のような手順を踏んでおられました。

1.同じメニューに何度も連続して挑戦する(この場合、毎日餃子作り)

2.なぜおいしくできなかったのか、考える(調理時間?水の量?手順?)

3.次につくるときは、その部分を改善してみる

このようにして、納得のいく味になるまで、何度も挑戦するのだそうです。そこまで連続して作れば身体で作り方も覚えますし、味の改善も大いに図れるというわけです。

この方法はすべてに応用できますよね。たとえばダイエットを見てみましょう。「宴会で食べ過ぎて翌日の体重は激増!」という状況になったとします。なぜそうなったのかを考えてみます。

1.お酒がおいしくて色々と飲んだ

2.唐揚げやポテトなど、カロリーになりやすい炭水化物も食べた

3.このところストレスがたまっていたので、「ま、今日ぐらいいっか~」と食べ過ぎてしまった

このように、体重が増えた分析を冷静にしてみると、色々な要因が明らかになってきます。

ではどうすれば体重を減らせるか、ここで大事なのは自分を一つの商品ととらえて、冷静に分析することなのですね。「体重が増えてしまった。私って意志が弱いからすぐ食べ過ぎてしまう。あ~、ダメな私!」と自分を責めても体重計の針はマイナスにはなりません。あとは行動あるのみなのです。そこでできることを考えてみると、

1.今日はエレベーター・エスカレーターを使わず、とにかく歩く

2.朝食のパンは抜いて、炭水化物の摂取を控える

3.夕方にスポーツクラブのレッスンに参加する

これで行動計画が出来上がりました。あとは実践あるのみです。

私にとって、勝間さんのお話を直に聞けたのは、非常に良かったです。もちろん、書籍からも同様の情報は得られたでしょう。けれども直接あの会場で、他の参加者も熱心に聴く中、ご本人を拝見してそのエネルギーを生で感じることができたのが、一番の収穫だったのです。

「問題解決マニア」を応用して、私はこれから次の観点で物事の解決を進めようと決めました。「Why x 3」「How x 3」という考えです。これは「なぜそうなったのかの要因を3つ」「どうすれば改善するかを3つ」考えるということです。そうすることで、少しでも事態が前に進めるよう、努力していきたいと思っています。

(2012年7月23日)

【今週の一冊】

hiyoko-12.07.23.jpg

「小松亮太とタンゴへ行こう」小松亮太、旬報社、2009年

 今回ご紹介するのはバンドネオン奏者・小松亮太さんが記した一冊。現在、「グスコーブドリの伝記」という宮沢賢治のアニメーション映画が上映されているが、その音楽をすべて作曲したのが小松さんである。

 小松さんのことは以前から存じ上げており、何度かコンサート会場へ足を運んだこともある。演奏の合間のトークがいつも楽しく、美しいタンゴの音色に魅せられるファンは私を始め多い。本書はタンゴの魅力はもちろんのこと、曲の紹介やバンドネオンという楽器についての説明も詳細に出ており、写真も豊富。南米・アルゼンチンまで出かけることができなくても、たっぷり雰囲気を味わえる一冊だ。

 中でも印象的だったのが、小松さん自身がいかにしてバンドネオンの技術を身につけたかというくだり。タンゴブームがあったのは昭和30年代。小松さんはさらにその後の生まれである。ご両親がタンゴ関連のお仕事をしていらっしゃるので、幼いころからそうした環境には身を置いてはいる。けれどもバンドネオンを教える師匠が日本にはいなかったのである。そのような中、独学で学んでいったくだりは読むだけで小松さんのエネルギーを感じることができる。さらに、今70歳代の、タンゴブームを味わった人々だけでなく、もっと幅広い世代にタンゴの魅力を伝えたい。そんな小松さんの使命感が本書にはあふれている。

 ところでバンドネオンという楽器はよくアコーデオンに間違えられる。しかしアコーデオンのように規則的にキーが並んでいるのではない。ドの音からうんと離れたところにレのボタンがあり、ミはまた別のところにあるという、実に複雑怪奇な楽器なのだ。そんなバンドネオンをどうやって弾けるようにするか。小松さんは次のように述べている。

 「アマチュア・ミュージシャンの第一義が『楽しむこと』なのは言わずもがな。けれど『楽しむ』という次元に到達するまでには『楽しくない』地道な練習も不可欠です。」

 英語の学びも全く同じ。要は何かをマスターしたいと思ったら、そうした泥臭い地道な努力が必要なのだ。

Written by

記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学・順天堂大学非常勤講師。 上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。 ロンドンのBBCワールド勤務を経て現在はCNNj、CBSイブニングニュースなどで放送通訳者として活躍中。 NHK「世界へ発信!ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説を担当。 ESAC(イーザック)英語学習アドバイザー資格制度マスター・アドバイザー。 通訳学校にて後進の指導にあたるほか、大学での英語学習アドバイザー経験も豊富。 著書に「通訳の仕事 始め方・稼ぎ方」(イカロス出版、2010年:共著)、「英検分野別ターゲット英検1級英作文問題」(旺文社、2014年:共著)。

END