INTERPRETATION

第90回 最近寄せられた学習相談から

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

現在私は英語学習に関する悩み相談にも応じています。そこで今日から3回にわたって、最近寄せられた英語の勉強に関する疑問をご紹介しましょう。

質問: 「忙しくて学習時間がとれません。どうしたら良いですか?」

回答: 今の時代、本当に忙しいですよね。仕事の有無はさておき、気が付いたらあっという間に一日が終わっていたということは誰にでもあると思います。でも1日は万人にとって24時間。ならば自力で工夫をして時間を捻出するしかありません。

まずは自分の現在の時間の配分を記録してみましょう。朝起きてから寝るまで、何にどれぐらい費やしたかを書いていくのです。たとえば「6時起床、6時15分朝食、6時30分身支度、6時45分から7時までメールチェック」という具合です。丸一日、どう過ごしたかをひたすら書くのです。細かくて面倒に思えるかもしれませんが、とりあえず一日は我慢して書いてみてください。

夜寝る前に、その日どのような一日だったかを振り返ります。「結構あわただしく食事を済ませているなあ」「通勤時間ってこんなに長かったんだ」「メールチェックとネットサーフィンにこれほど時間を費やしていたとは!」など、色々な発見があると思います。どのような気づきがあったか、メモしてください。

次にやることは、その「気づき」に基づき、時間を再配分することです。たとえば「消化に悪いからもう少しゆったり食事をしたい」「長い通勤時間にスマホばかりやっていたけれど、何か有意義に使えないかな」「職場でも帰宅後もPCや携帯画面ばかり見ていた」といった場合、ではどのようにして改善できるかを考えてみるのです。今日一日は過ぎてしまいましたが、改善するとしたらどのような時間配分にしたいか、反省の意を込めて「訂正版」を作ってみてください。

翌日は、前日の「訂正版」を念頭に行動してみます。すべてをいきなり改善することは難しいものです。ですので、一つでも良いので変えられるところがあれば、そこを意識して有意義な時間を過ごしてみてください。「昨日は通勤中スマホ三昧だったけれど、今日は英単語の勉強をした」となれば、大いなる飛躍です。こうして少しずつ少しずつ、行動パターンを変えていくのです。一週間もたつと、それまでのやり方からかなりの変化が見られるはずです。

心理学によると、何かを習慣化させるには「3」の数字がカギを握るのだそうです。「三日坊主」という言葉がありますが、逆に3日続けられれば、それ以降も継続できる確率は高くなります。さらに3週間、30日、3か月・・・という具合に続けられれば、自分の中で習慣化されます。

さらに「意識しなくても自然と出来るようになる状態」にするためには、200回ぐらいの繰り返しが必要だそうです。子どもが歯磨きの習慣を構築するまで時間がかかるのと同様、大人でも何かを無意識にできるようになるまではくり返しの作業が求められるのです。

隙間時間は探そうと思えばいくらでも出てきます。信号待ちの間、電車を待っている間、電車の乗り換え時間、電子レンジでご飯を温めている間など、たとえ数秒・数分間であっても、積み重ねれば大きな時間になります。そうした隙間時間にどのような学習メニューを組み立てるかということになります。「1分間で知っている単語をすべて声にしてみる」「電子レンジを待つ間に英字新聞の音読をする」など、自分ならではの作業を考えてみるのです。そうした創意工夫も英語学習では楽しい作業です。

(2012年10月15日)

【今週の一冊】

「駅弁ひとり旅 がんばっぺ東北編」櫻井寛・監修、はやせ淳・作画、双葉社、2012年

マンガ本をご紹介するのは今回が初めてとなる。著者は駅弁を求めて日本中を旅するフォト・ジャーナリスト。震災前から東北には何度も出かけており、お店の人たちとも顔なじみである。ところが東日本大震災が発生し、東北地方の駅弁関係者も大きな打撃を受ける。お世話になった人たちは今どうしているのか。その旅がこの一冊には収められている。

非常に丁寧な絵で駅弁や東北の風景が描かれており、写真を見ているかのようなリアリティーさがある。感動の再会や現地の人々がひたむきに生きる姿には胸を打たれる。今、関東にいる私に何ができるだろうかということを考えさせられる。

これまでもシリーズものとしてたくさん刊行されている。旅に出られなくても駅弁や日本各地の情緒を味わいたいという方にはお勧めしたい一冊だ。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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