INTERPRETATION

第467回 食わず嫌い

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

随分前のことなのですが、内心「ちょっと苦手だなあ」と思う人がいました。悪い方ではなかったのですが、どうもご一緒していると私の心の中が違和感であふれてしまうのですね。

なぜなのか考えてみました。

1.話し方のペースが異なる。私が望むような会話のキャッチボールが難しく、どこで相槌を打つべきか、どのタイミングでこちらが話し始めたら良いのか難しい
2.好みが異なる。相手の方の好き嫌いと私のそれとが今一つかみ合わない。ゆえに同調するのが難しい
3.第三者の噂話になってしまう。私はもともとその場にいない人のことを話すのが苦手(小学校時代に女の子グループで悪口や噂話で嫌な思いをしたため)
このような具合でした。それでその方と会うのがどうも憂鬱だったのです。

ちなみに私は目の前の状況に対して「辛いなあ」と思った際、
1.耐える
2.改善に向けた建設的意見を伝える
3.離れる
のいずれかを取るようにしています。先の方に対して最初に私がとったのは「1.耐える」でした。なぜなら状況柄、「3.離れる」ということができない環境下にあったからです。

「耐える」というのは、自分さえ我慢していれば何とかなります。顔で笑顔を作ってさえいれば、その場を無難にやりすごせるでしょう。けれども心の中は「早くこの場を去りたいなあ」という思いに満ちてしまいます。時間が長く感じられるのです。さりとて「離れる」わけにもいかず、立場上「建設的意見」を申し上げるわけにもいきませんでした。ですので、かなりしんどい状況が続いたのです。

けれどもある日、私は発想を思い切り変えることにしました。それは、以下の通りです:

まず、「第三者の噂話」をもしされたならば「そうでしたか、大変でしたね」と言う事に決めました。私はその第三者を知らないわけですので、同調するわけにもいきませんよね。要は私に対してガス抜きをしているだけですので、私は相手の「辛かった」という気持ちに共感すれば良いのです。「しんどい思いをされたのですね。大変だったことでしょう」と言うようにしました。

一方、「話し方のペースが異なる」点については、私が遠慮し過ぎるから余計ペースが合わないのだと思うことにしました。ですので、相手が息継ぎをした瞬間に少し話題を転換するなどして、私自身がストレスをためないようにしてみました。実際にそれをやってみたところ、相手の方も私の話題に乗ってきてくれたのですね。要は私が深読みし過ぎて相手ペースに乗じていたのですが、そこまで気を配り過ぎなくても良いのだという事がわかりました。

なお、「好みの違い」については、「人は人、私は私」と思うことにしました。そして「そうでしたか、○○が苦手なのですね。実は私、その○○が大好きなんです!」と言ってみたのですね。これで私のモヤモヤ感は一気に解消したばかりか、相手の方も「わあ、そうなんだ!どういう点が魅力なんですか?」と逆にこちらが着眼する長所に目を向けてくれたのです。面白い展開となりました。

そのように私の方のマインドを変えることで楽しい会話が続くようになり、私のその方への苦手意識は一気になくなりました。これは本当に大きな展開でした。まだ若いころだったのですが、あのときに「嫌だ嫌だ」と思って避けたりしなくて本当に良かったと思っています。

あ、要するにこれは「食わず嫌い」ということだったのかもしれませんね。となると、「私は理系分野の通訳はニガテです」と思うのではなく、「勉強したらきっと面白いはず!!!」と思って積極的に学習した方が良い、ということなのでしょう。

(2020年11月10日)

【今週の一冊】

「高山都の美食姿」高山都著、双葉社、2017年

この本を手に取ったのはまったくの偶然です。図書館から借りてきたのですが、はて、何がきっかけでリクエストしたのか今となっては思い出せないのですね(恥ずかしながら)。とは言え、実に読みごたえがあり、元気を頂けた一冊でした。

著者の高山都さんはビューティ―モデルやドラマ、ラジオなどで幅広く活躍されています。それまでコンビニ弁当だったのが、ランニングを始めたことになり食と健康に目覚め、それについて綴っているのが今回ご紹介する一冊です。

本の前半には美に関することが綴られています。運動や早起き、姿勢のことなど出ています。ご本人は運動が以前はまったくダメだったとのこと。それでも少しずつ走ることを続けて今ではフルマラソンもされているようです。

私自身、とても参考になったのは後半の食に関するページ。たとえば「揚げ物をする際には油はフライパン2センチで可能」「お弁当には仕切りカップを使わず、レタスで仕切る」など、参考になる記述がたくさんありました。確かにアルミカップを消費したり、あるいはプラスチックカップをその都度洗うよりも、一緒に食べられるレタスで仕切りをした方が彩りも良いですよね。

調べたところ、すでにパート3まで出ている「美食姿」シリーズ。しかも2冊目3冊目の表紙を見ると、髪型がすっきりボーイッシュになられていることが分かります。美食姿を通じて高山さんご自身の成長プロセスが拝見できそうです。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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