INTERPRETATION

第272回 我流・英語文献の読み方

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

通訳準備の大きな割合を占めるのが「予習」です。事前の勉強が当日の出来の9割を左右すると言っても過言ではありません。なぜなら、当日の業務で何が出て来るかはふたを開けてみないとわからないからです。業務を割り当てられた時点で関連資料はいただけますが、あとはどこまで本人が広く浅く、そして狭く深く勉強するかがカギを握ります。

通訳の場合、そうした「にわか専門家」になることに加えて、その分野で出てくる用語を日本語と英語の両方で理解し、瞬時に口をついて訳出できることも求められます。このため、予習の際にもバランスよく専門知識を両言語で読んでおくことが大切です。

こうしたことから私は英語の専門文献やjournalと言われる学術論文・機関誌にも目を通すようにしています。日本の新書や通常の本と比べると、そうした専門文献や論文は活字ばかりで図解説明がほとんどありません。ページをびっしりと占めるアルファベットだらけの状況に慣れるまでは頭がクラクラしていましたね。大学院で勉強していたころも専門書ばかり読まされ、どこから手を付けてよいかわからず途方に暮れたこともありました。

では、何か効率的な読み方はあるのでしょうか?私自身、「我流」ではありますが次の10ステップを踏むようにしています。

1.最新のものを選ぶ

論文や専門書の場合、私は「一番新しく発行されたもの」から読むようにしています。なぜなら最新刊であれば、これまで刊行された他の文献が網羅されているからです。研究結果も新しいため、最新情報を知ることができます。

2.keywordsに注目

学術誌の場合、その論文のキーワードが冒頭には掲載されています。これは、本文がどういった単語を土台に展開しているかを示すためです。自分が探している内容がこのキーワードリストにあることを読む前に把握できるので便利です。

3.abstract→conclusionの順に読む

論文タイトルのすぐ下にはabstract、つまりその章の概要が1パラグラフにまとめられています。長い論文でもその概要を読むことにより、全容がつかめるのです。abstractを読んだら私はすぐ章末のconclusionを読み、論文全体がいわんとしている結論を把握します。

4.referencesやbibliographyに付箋紙を貼る

これらはいずれも参考文献リストのことで、著者が本文執筆の際に参考にした文献が網羅されているページです。abstractとconclusionを読んだ後はいよいよ本文を読み始めるのですが、その前に私は参考文献リストに付箋紙を貼ります。こうすることで、いざ本文を読み始めてから本文中に他書籍の紹介があれば、すぐに原典の書籍名を参照できるようにしておくのです。

5.先行研究に注目

論文の場合、abstractの後の本文では先行研究の紹介があります。これは、論文著者が自分の調査結果や考えを披露する前に、これまで同様の研究がどのように展開されていたかを紹介する部分です。読み進めると、過去の文献がたくさん出てきますので、referenceやbibliographyと突き合わせながら読んでいきます。個人的に興味のある他文献があれば、印を付けておき、そちらにもあたるようにしています。

6.methodの部分はさらりと

abstract、先行研究の後はいよいよ著者がどのように調査を進めたかを紹介する部分となります。たいていの論文はmethodという小見出しで書かれているのですが、ここでは具体的な方法論の話が展開します。社会統計学などの話題がメインです。正直なところ、私にとって統計学は未知の分野であるため、この箇所はさらりと読み、次に進みます。

7.resultsに注目

方法論のところでは統計数字や数式などがたくさん出てきますが、その後のresultsではいよいよ調査結果が登場します。「こういう母集団に対してこのような人数が○○と答えた」という具合です。私自身はここに出ている細かい説明よりも、「何がどうした」を把握するようにつとめて読み進めています。

8.もう一度conclusionを読む

ステップ3の段階で結論は一度読んでいるのですが、ここまで本文を読んだ後、改めて結論を読みます。再度読むことにより、著者が何を言いたいのか、確認することができるからです。

9.他の章にもざっと目を通す

機関誌の場合、著者以外の専門家が他にもたくさん寄稿しています。他のページもざっとめくり、最新の学説がどのようなものなのか注目すると、その学術界のトレンドをつかむことができます。

10.索引を活用する

専門文献の場合は巻末にindexがあります。アルファベット順にキーワードがここにはありますので、自分の関心がある単語を探しながら、該当ページを読みます。こうすることで、自分の好奇心からさらに発展的に学ぶことができます。

いかがでしたか?何とも「我流」な読み方ですが、一字一句を丁寧に読むにはあまりにも時間がないときなど、自分なりの読破法があればそれだけでも英語文献へのハードルは下がります。皆さんも皆さんなりの工夫を加えながら、ぜひ学術文献を楽しんでくださいね。

(2016年8月15日)

【今週の一冊】

「世界の美しい空港」 宝島社、2012年

久しぶりの大ヒット本!私はもともと空港が大好きで、今でも飛行場へ行くたびにワクワクします。学生時代や独身の頃は旅行や仕事でずいぶん飛行機にも乗っていました。ところが子育て時代に突入すると日々の生活が最優先され、なかなか飛行場を利用することもなくなってしまったのですね。ですので、たまに空港を訪れるとそれだけで大興奮です。

本書は世界各地の空港を写真におさめた美しい一冊です。今まで意識したことがなかったのですが、実は空港というのはどこも天井が高く、ガラス張りになっているのですよね。流線型の美しさや、空港ロビーに置かれている椅子のこと、あるいは施設の話など、本書はあらゆる角度から空港の魅力を綴っています。

標識やピクトグラムには共通デザインこそあれ、細部は微妙に異なります。非常口マーク、両替所、お手洗いの表示など、旅先と日本のものを見比べてみるのも面白いでしょう。ほかにもフライト情報の表示板やアナウンス、荷物カートなど、どこをとってもお国柄や雰囲気がありますので、そうしたところに着目するのも旅を楽しくしてくれます。

中でも興味深かったのが、空港を表す3レターコードの話。羽田空港はHND、成田はNRTですが、このコードを作成するルールやオモシロ3レターコードも紹介されています。ちなみにWorld Airport Codesというサイトでは3レターコードを詳しく調べることができるのですが、私の名前のSanaeの最初の三文字SANはSan Diego International Airportのコードでした。シバハラのSHIは沖縄県宮古島市の下地島空港、ABCはスペインのAlbacede-Los Llanos AirportでJALはメキシコのEl Lencero Airportのコードです。

ちなみにドイツ・フランクフルト空港の出発案内板は、パタパタと文字が入れ替わるタイプです。昔懐かしの案内板が今なお残っているそうです。

「空港」をキーワードに大いに楽しめる一冊でした。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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