INTERPRETATION

第274回 迷った時こそ動く

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

空梅雨と思いきや、台風の大雨に猛暑など、今年の夏も色々なお天気でしたね。今頃になって疲れが出てしまい、アクセルを踏んでも今一つ、という方もいらっしゃることでしょう。私の場合、なるべく1年間を通じて睡眠や運動、仕事量などを一定に保つことでリズム感を持つようにしています。そうすることで急激な変化などに慌てないようにしているつもりです。

とは言え、人間は機械ではありませんので、今までなら何ともなかったのに突然息切れということは大いにあり得ます。私は過去に何度か数日間寝込むほどの風邪をひいたり胃痙攣に見舞われたりということがありました。緊張感の連続が突然切れてしまったからなのでしょう。昏々と眠るばかりという感じでしたね。以来、オンとオフを切り替えることや無理をしすぎないことなどを意識するようにしています。

そのようなことから、「運動」は仕事をしていく上で私にとって欠かせない要素です。中学時代までは運動音痴だったため、高校で一念発起して体育会系の部活に入りました。ただ、強豪高校ではなかった分、私にとっても心地よい運動量でしたね。一方、大学では文化系に入ったがゆえに、またもや運動からは疎遠に。社会人になってスポーツクラブに入るも三日坊主というありさまでした。本格的に運動を日常生活に取り入れるようになったのは、ここ10年ぐらいです。

ではなぜ生活サイクルに運動を組み込むようになったのかと言いますと、ひとえに「人間の体というのは年齢と共に衰えるから」です。たとえ心の中では20代と思っていても、体は確実に年を重ねていきます。数年前に私はマラソンにはまったのですが、関節を痛めてしまい断念。私の場合は根を詰め過ぎてしまってケアを怠ったのが原因でした。年齢ももちろんあります。よって、「外気の中で走る」という行為はその時点で封印したのでした。

ただ、ドクターからは「スポーツクラブのような床のクッションが柔らかいところならOK」というお言葉をいただき、それに一縷の望みをかけて運動を再開しました。幸いなことに素晴らしいインストラクターの方々との出会いもあり、今でもレッスンには定期的に参加しています。

それでもごくたまに「今日はレッスン、出ようかなあ、どうしようかなあ」と思う日があります。何となくどよーんとしていたり、授業や通訳準備が今一つはかどっていなかったりという日にそう思います。「やはり運動よりも仕事準備よね。時間には限りがあるのだし」という焦りも出てくるため、何とかして「運動をしない言い訳」をあれこれ考え始めます。家を出てスポーツクラブへ行き、レッスンを受けて再び身支度をして帰宅となりますと、それだけで確実に2時間はかかるからです。

けれどもこれまでの自分の経験から編み出した結論は、「迷った時こそ動く」でした。そのままうなりながら机の前で勉強をしたところで、もともとはかどっていなかったのです。突然エンジン全開になる確率は極めて低いことがわかっています。ならば勉強は中断、思い切って体を動かす方が気分転換にもなり、頭もさえるはずです。

迷ってグダグダするのが一番の時間のロスです。しかも私の場合、そういう時に限って「調べ物」と称してダラダラとネットサーフィンするのがいつもの行動パターン。そしてさらに気分がめいってしまうのです。

迷うぐらいなら即行動!取り組まずに後悔する際の精神的ダメージは、負のスパイラルの入口だったりするのですよね。「行動に向けた小さな一歩」を大事にしたいと思っています。

(2016年9月5日)

【今週の一冊】

「NANO HOUSE 世界で一番小さな家」 フィリス・リチャードソン著、寿藤美智子訳、エクスナレッジ発行、2013年

日ごろ放送通訳に携わっているためか、逆に自宅ではほとんどテレビを見ない生活がこのところ続いています。おそらく家では目を休めたいからなのでしょうね。それでもドキュメンタリーは好きで、新聞のテレビ番組表を毎朝チェックしては面白そうな番組を視聴するようにしています。中でもお気に入りは週末にNHKのEテレでやっている「地球ドラマチック」。先日の回では世界のオモシロ住宅が取り上げられていました。ペットボトルを海に浮かせてその上に家を作った人、ゴミ箱をマイホームにした人、飛行機を森の中にわざわざ移して家にしている元パイロットなど、実に興味深い内容でした。

それがきっかけとなって手に取ったのが今回ご紹介する一冊です。本書は写真集なのですが、解説も充実しており、世界各地にある「小さな家」がテーマとして取り上げられています。カプセル型、スーツケースを開くとビニールハウスのような形になる家、床が斜めの箱型ハウスなど、こちらも先日の番組同様、多種多様です。デザイン先進国のオランダや建築学の発達しているアメリカの大学、東欧や北欧、南米の一軒家など、世界にはこれほどユニークな家があるのかと気づくことができます。

中でも私の目を引いたのがスロベニアの一軒でした。「スロベニア」と聞いても私の場合、「旧ユーゴ」という言葉が思い付くぐらいだったのですが、建築デザインは自由で大胆なようです。

気になったので、別の建築関連の本を探したところ、やはりそちらにもスロベニアの作品が紹介されていました。そういえば、トランプ夫人の現夫人、メラニアさんはスロベニア出身で、建築学科に在籍したことがあったのですよね。一冊の本がきっかけで、今の大統領選挙にまで通じたことも嬉しい発見でした。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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