INTERPRETATION

第298回 最近の本の読み方

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

大学の春休みは1月中旬から始まります。私も学生時代に長い休暇を楽しみました。アルバイトや旅行など、今にしてみると本当に貴重な経験を積むことができましたね。あの年頃ならではの感性で色々と考え、体験できたのは良かったと思っています。

さて、今年の春休み、私は「とにかく本をたくさん読もう」と決めました。具体的には、週1回大学へ行き、丸一日図書館にこもり、ひたすら本を読み進めるという計画です。時間は午前9時から夕方4時まで。出講先の大学図書館には研究個室がありますので、そちらで過ごします。

どのような本を読むかについては、せっかくの長期休暇ですので、幅広いジャンルを目指すことにしました。いわゆる「芋づる式読書」です。一冊の本の中に出てきたキーワードを頼りに、それに関連する本をコンピュータで調べ、それを読むという作業を繰り返します。

私は日ごろから「読みたい本リスト」を作成しており、自宅から図書館のHPにアクセスし、すでにそれぞれの本の請求番号を控えています。その番号を元に本棚をくまなく歩き、お目当ての本を探します。肩には大きめのエコバッグをさげ、見つかった本はどんどん中に入れていきます。館内で読みますので貸し出し手続きはせず、ある程度本を集めたら再度研究個室へ戻ります。

戻ってからが、さあ勝負。机の上に先の本をズラーッと並べ、その中から一冊選び、タイマーを45分間セットします。私はスマートフォンもモバイルPCも持っていません。読書タイムですので携帯電話もサイレントモードにします。これで集中できる環境が整いました。あとはひたすら読むだけ。机上にノートとペンを出しておき、気になる箇所は書き写します。タイマーが鳴ったらいったん中断して15分の休憩をとります。体を伸ばしたり、個室の外に出て資料検索機で別の本を探したりなど、座りっぱなしにならないようにします。

そしてまた45分間の読書再開です。このようにして個室に持ってきた本をその日のうちに読み終えることを目標とします。読み切れなかった本のみ、貸し出し手続きをして自宅で読む、というのが一日の流れです。あえて夕方までコンピュータ画面を見ないのも、「本を読むこと」を第一にしたいからなのです。

館内で優先的に読むのは、ハードカバーや学術書です。と言いますのも、一回に貸し出しできるのは30冊ですので、なるべく持ち歩きしやすい新書や文庫、ソフトカバーの本を借りたいからです。ちなみに読む際には本そのものに空気をいれるような感覚で冒頭からザーッと読み始め、最後の巻末索引を改めて見渡し、気になるキーワードのページのみを再度めくって読むようにしています。

私の場合、自宅で仕事をしていると時間が気になってしまうのですが、なぜか大学図書館にいったん入ると時間を忘れてしまいます。45分+15分というサイクルを続けていると、あっという間に午後になり、気が付いたら昼食すら取らずにいたということもしばしです。

こうして時間を過ごしていると窓から入る日の光が弱くなり、夕方になります。16時になると片づけをして研究個室を空け、カウンターで30冊分の貸し出し手続きを終えて家路につきます。

次は30冊をどう読むか。次週まで中6日ありますので、「30÷6=5」となり、一日あたり5冊読めば制覇できることになります。さあ、あとは一日5冊読むためにどう時間を捻出するかです。隙間時間を見つけ出し、信号待ちの時も読めば何とか達成できるでしょう。そのためにも持ち運びしやすい新書や文庫を選んでいるのですね。

4月に新年度が始まれば、授業準備やその他の仕事でまた慌ただしくなります。3月末までの数週間は、私にとって貴重な「栄養補給期間」と言えそうです。

(2017年3月13日)

【今週の一冊】

「英単語の語源を知り語彙を増やすためのラテン語‐日本語‐派生英語辞典」 山中元著、国際語学社、2006年

2月から大きくCNNでも取り上げていたのが、金正男氏の話題でした。このニュースはやがてマレーシアと北朝鮮の外交問題にまで発展し、北朝鮮の駐マレーシア大使が国外追放されています。その時のレポートで出てきた単語が「ペルソナ・ノングラータ(好ましからざる人物)」でした。

「ペルソナ・ノングラータ」はラテン語で、persona non grataと書きます。persona grataがその反対語で、こちらは「意にかなう人、お気に入り」という意味です。研究社のリーダーズ英和辞典では外交用語の意味として「接受国(政府)にとって容認できる人(外交官)」と説明しています。英語にはこのようなラテン語の表現が少なくありません。早速書籍を探してみたところ、今回ご紹介する一冊に巡り合うことができました。

本書はアルファベット順にラテン語が掲載されており、日本語の意味、そして語源的に関連のある英語が一覧になっています。personaを引くと隣にfと出ており、この語が女性名詞であることがわかります。意味は「マスク、人」とあり、派生英語としてpersonとparson(牧師)を紹介しています。grataに近い語としてgratare(喜ぶ)やgratia(好意、優美)、gratulari(祝賀する)などがありますので、何となく雰囲気はつかめますよね。

BBCの放送通訳をしていた1990年代末にコソボ紛争が起きました。その時、連日記者会見で画面にお目見えしたのがNATOのシェイ報道官です。シェイ氏はオックスフォード大学で博士号を取得した学者肌のスタッフでした。記者会見もシェイクスピアの引用あり、詩の読み上げありなど、通訳者にとってはchallengingでしたね。そのシェイ報道官が使ったラテン語で今でも覚えているのが、quid pro quo(代償)です。いきなりラテン語が出てきて私も驚いてしまい、前後の文脈から推測して苦し紛れの通訳をしたことを覚えています。

以来、英語を学ぶ上でラテン語が実に大切であると私は感じています。本書の巻末には英語から引けるリストがあります。辞書ですので、最初のページから読むのでなく、興味に応じてめくってみると、英語とラテン語の共通点が多いことに気づかされます。

そういえば以前、手帳を新調しようとした際、店頭で「クオバディス」というメーカーの商品を見ました。どうやらこれもラテン語のようです。本書をめくってみたところ、quoは「どこへ」、vadereは「進む」と出ていました。ちなみに電子辞書にもquo vadisは出ており、「主よ、あなたはどこへいらっしゃるのですか」という意味だそうです。新約聖書「ヨハネによる福音書」の一節とのことでした。

うーん、面白い!こうなると他の単語も気になります。自分の職業関連で見てみると、translatedはラテン語でtrans-latus、interpretはinter-pretariです。languageはlingua(これはおなじみですよね)、simultaneouslyのラテン語はsimulと出ています。しばらくはこうして既知の単語をラテン語で知る楽しみが続きそうです。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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