INTERPRETATION

第21回 インド料理から考えた英語学習

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

前回は食べ放題と英語に関する話題を書きました。今回も引き続き「食」がテーマです。

先日、とあるハードな打ち合わせがありました。中身が濃かった分、終了時には脳が空腹状態に。まだ午前10時過ぎでしたが、お腹は鳴っています。おそらく早起き&ウォーキングで余計空腹を感じやすくなっていたのでしょう。なぜか頭にひらめいたのは「本格派インド料理が食べたい」というもの。都内のレストランはどこもたいてい11時からの営業です。しばらく書店で時間を費やしながら、「11時になったらインド料理店へ行こう!」と楽しみにしていました。

いざ11時になり、書店を出たものの、意外や意外、インド料理店はなかなか見つかりません。大きなターミナル駅でしたが、普段降り立つことのない駅であったためか、裏通りを歩いたり駅ビル内を巡ってみたりしたものの、インド料理店と思しきお店に一向に巡り合わないのです。次第に「お腹もすいていることだし、まあ、適当なお店で妥協しようかな」とも思い始めました。しかしその一方で、「ここまで強烈にカレーとナンが食べたいと思っているのだから、あきらめてしまってはもったいない。頑張って探そう!」ともう一人の自分が主張します。結局そのまま歩き続け、ようやく一軒見つけました。

念願かなってのカレーとナンは実においしく、粘って探した甲斐がありました。店内の装飾もまさにインド。店員さんも現地の言葉で話しています。しばし異国情緒を味わいつつ、お腹も満たされて幸せな気分で帰路につきました。

自分が「こうしたい」と思ったことを満たせると、人間というのは実に満足できる生き物だと改めて思います。逆に、「お昼からインド料理はヘビーだし、カロリーも気になる。だから今回は止めておこう」「探してもなかなか見つからないんだし、別のお店でいいいや」と思ったらどうなったでしょうか?たとえ何らかの食事にありついたとしても、モヤモヤした気分のまま、昼食をとったことでしょう。

これは英語学習でも同じです。「今、私は○○のペーパーバックが無性に読みたい!」というときは、ぜひとも読むべきだと思うのです。「読みたいけれど、シャドーイングもやらなきゃいけないから、まずは声だし練習をしてから」と自分を抑えた場合、確かにシャドーイングの向上にはなりますが、自分を我慢させることになってしまいます。あるいは「洋画のDVDを借りて来たけれど、今日の分の問題集をやらないと」と思ってしまえば、やはりそれもストレスです。

私は仕事柄「どの英語学習法が良いですか?」という質問をよく受けます。けれどもそれに対しては「本人が一番やりたいこと」が一番の正解でもあると思っています。

(2011年5月2日)

【今週の一冊】

Longman Dictionary of Contemporary English with DVD-ROM「ロングマン現代英英辞典[5訂版]”Pears Longman 2009

今回ご紹介するのは「ロングマン現代英英辞典」。日本では桐原書店が発売しており、日本語版の使い方ガイドも冊子で添付されている。

現在私が使っている電子辞書の中にこの辞典は搭載されているのだが、紙の辞書がもともと好きなため、あえて買い求めた次第。やはり紙ならではの良さ、つまり「一覧性」と「カラー刷り」の恩恵は大いに受けられる装丁となっている。

この辞書は上級者向けに作られたものではあるが、初級レベルであっても非常に役に立つ。特に語彙の微妙なニュアンスの差や例文など、いずれも豊富に紹介されており、カラー写真もたくさん掲載されているので眺めているだけでも楽しい。

ちなみに英和辞典と英英辞典では語義の掲載順位が異なることがある。英英辞典の場合、ネイティブの間で一番使われる語義をトップに掲載するのだが、英和辞典の場合そうとは限らないのである。たとえばexpatriateを引いてみると、リーダーズ英和辞典の場合、「(他動詞)国外に追放する、(自動詞)生国を離れる、(中略)(名詞)国外に追放された人、国外在住者」などとなっている。一方、ロングマンの場合は”someone who lives in a foreign country”とあり、名詞での活用が最初に出ている。つまり、ネイティブはexpatriateと聞いたら真っ先に「海外在住者」という語義を思い浮かべるのである。

本辞典は類語も多数載っており、単語力を増やすのにもうってつけである。電子辞書の場合、「用例」や「解説」「例文」ボタンを押して初めてありつけるが、紙の辞書はページを開けばそのまま目に飛び込んでくる。「ついで学習」をやりやすいのも紙ならでは。ぜひ紙の辞書の良さを見直していただければと思う。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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