INTERPRETATION

第24回 集中できないときのメニューを用意しておく

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

中学高校時代の私は幸いにして自分の勉強部屋があり、自らのペースで学習を進めることができました。社会人になり一人暮らしをしていた時も「学びのスペース」だけは確保して暮らしてきたのです。それが少しずつ変わったのが、家庭を持ってからでした。

我が家の場合、夫婦ともに同じ仕事をしており、書籍や資料は膨大な量になります。2002年にイギリスから帰国した直後に暮らしていたマンションは、かなり空間的にもタイトな物件でした。小部屋を夫の仕事部屋として、私は自分の仕事準備や勉強を食卓で行っていたのです。朝4時に起床し、家族が起き出すまでの2時間が勝負。そのおかげか、「短時間で優先順位をつけながら仕事をする」ということだけは否応なく身についたように思います。

幸い数年前、それまでフリーランスだった夫が固定の仕事場を持つようになったため、小部屋を譲り受けることができました。そして昨年秋に引っ越し、少しだけ空間に余裕もできたため、現在はこの原稿も自分の机で書けるようになっています。

とはいえ、独り身のころのように自分の好きなように仕事の準備や勉強をすることはなかなか難しいものです。隙間時間を狙って原稿を書き始めたら、それまでおとなしく勉強をしていたと思っていた子どもたちが「ねーねー、おかあさ~ん、あのねー、今日学校でねえ、〇〇して、△△して、☆☆ちゃんがねー・・・」と突然書斎にちん入(?)してくることもしばしばです。ついこの間まではそんなときも「お母さんは今お仕事中だから、またあとでね」と言って退出願っていました。けれども最近になり、「あとでね」が実現せずに未消化になってしまうことに気付いたのです。これでは子どもたちも欲求不満になってしまいます。それで自分なりに以下の原則を打ち立ててみました。

(1)集中力を要する仕事(原稿執筆など)は子どもたちが不在の時にやる

(2)机に向かっている時に書斎に入ってきた際には、私も作業の手を止める。その場でじっくりと聞いてあげるだけでも子どもは案外満足して数分で話を切り上げるもの。

(3)話が長引きそうなときは、部屋を変える。深刻な話でなければ、子供たちが話している間にできることをやる。お皿拭き、洗濯物たたみ、昆布のカット(だしとり用に大きい昆布を小さく切って使っているので)、リビングの整理整頓など。

こうしてみると、「集中できないときにどうするか」というメニューを考えておくとイレギュラーの際にもあわてずに済むようです。「真剣に仕事をするとき」と「ルーティンでできる手作業」を今後も組み合わせながら暮らしていきたいと思っています。

(2011年5月23日)

【今週の一冊】

「モレスキン『伝説のノート』活用術」堀正岳、中牟田洋子著 ダイヤモンド社 2010

ここ数年、文具店に出かけると目立つところに置いてあるのがモレスキンのノートとロディアのメモ帳。名前だけはどちらも知っていたが、使ったことはない。それゆえにずっと気になっていたので、本書を買い求めた。

モレスキンは芸術家や作家などが愛用したという、伝統あるノート。見た目は黒表紙のごくありふれた作りだが、本書を読んでみてその魅力が大いにわかった。キーワードは「シンプルであること」。だからこそ、使う人が自分ならではの使い方を実現でき、使い込むことができるのだそうだ。

私はここ数年、疑うこともなくシステム手帳を利用してきた。リフィルは「見開き月間カレンダー」と「1日1ページダイアリー」である。月間カレンダーはその月の予定が一目でわかるから、一方、1ページダイアリーは時間が縦に書いてあるので、その日一日のスケジュールを書きやすいからである。

けれどもその一方で、システム手帳の使いづらさも最近目に付くようになってきた。とりわけ大きいのは「重くてかさばること」「リングの部分に利き手があたって書きづらい」の2点である。何か思いついたらすぐに手帳に書こうと思いつつも、電車の中でわざわざかさばるシステムバインダーを取り出すのはそれだけで一仕事だ。

モレスキンは表紙も固くできており、立ったままでも書きやすいとのこと。また、ゴムバンドが付いているので中に何かを挟んでも落ちにくいという長所がある。日付欄や不要なスペースなどもないため、とにかく自分なりにアレンジできるのが最大の特徴だ。

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柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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