INTERPRETATION

第27回  気候変動と菜食主義

グリーン裕美

国際舞台で役立つ知識・表現を学ぼう!

地球の温暖化、気候変動がますます深刻化する中で私たち一人ひとりは何ができるでしょうか? エネルギー効率のよい電化製品を使ったり、車や飛行機での移動を減らすなど、多少は考えられますが、個人レベルで出来ることが限られているようにも思います。けれども先週発表された国連の気候変動政府間パネル(IPCC)の報告書によると、肉や牛乳の消費量を減らし菜食主義(vegetarian)や完全菜食主義(vegan)の食事を増やすことが温暖化対策になるとのことです。

気候変動というと二酸化炭素の排出、つまり自動車や飛行機などの乗り物や工場などが排出するCO2がよく問題視されます。けれども実はフードシステム(食料の生産から流通・消費まで)は世界で排出される温室効果ガス(greenhouse gases)の25%~30%を占めています。今後、大幅な人口増加が予測されているため、現在と同じレベルの肉を食べ続けるには大規模な森林伐採が必要になります。加えて、家畜、特に牛はメタンを大量に排出することも地球温暖化につながっています(関連記事)。

同量の牛肉の動物性たんぱく質と標準的な植物性たんぱく質を比較した場合、平均して肉牛の飼育には植物栽培の20倍の広さの土地が必要となり、温室効果ガス排出量も20倍となるそうです(Beef production requires 20 times more land and emits 20 times more greenhouse gas emissions per unit of edible protein than common plant-based protein sources)(関連記事)。

そこで植物性食品を中心とする食生活(plant-based diets)に移行することで気候変動の原因を減らすことができるというわけです。

一般的な菜食主義、ベジタリアンは乳製品や卵などの動物由来の食物も食べますが、完全菜食主義とも訳されるビーガンは動物に由来する食物を一切取りません(はちみつもダメ)。イギリスを含め欧米ではビーガンに移行する人(特に若い女の子)がずいぶん増えていて、子育ての悩みの一つにも挙げられています。

一方、米ハンバーガーチェーン、バーガーキングは動物由来の原材料を使っていないのに匂い・触感・味がふつうのバーガーとそっくりなImpossible Whopperを全国展開したことも先週ニュースとなっていました(関連記事)。

欧州でもveggie burgers, vegan sausages, tofu steaksなどと呼ばれるお肉を使っていないハンバーガーやソーセージ、豆腐ステーキの人気が高まっています(注:tofuは日本の「豆腐」よりずっと固いです…)。

一方、欧州連合(EU)は肉を含まない商品にburger, sausage, steakなどの名称を使用することを禁止するよう法令化が進んでいます。将来的には、植物由来の場合veggie burgersはveggie discs、quorn sausagesはquorn tubesのように表示しなければならなくなるかもしれません。その理由は「消費者への混乱を避けるため」とかで欧州議員は食肉業界のロビー活動の影響を否定しています。けれどもビーガンを含む消費者の反対意見も多く今後本当に法令化するかどうかは新たに選出された欧州議会議員によって議論されます(関連記事)。

今度、何を食べようか迷ったら、気候変動対策を思い出して精進料理にしませんか。今見たら、Cookpadに262品のレシピがありました。

2019年8月12日

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記事を書いた人

グリーン裕美

外大英米語学科卒。日本で英語講師をした後、結婚を機に1997年渡英。
英国では、フリーランス翻訳・通訳、教育に従事。
ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。
元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。
英国翻訳通訳協会(ITI)正会員(会議通訳・ビジネス通訳・翻訳)。
2018年ITI通訳認定試験で最優秀賞を受賞。
グリンズ・アカデミー運営。二児の母。
国際会議(UN、EU、OECD、TICADなど)、法廷、ビジネス会議、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)などの通訳以外に、 翻訳では、ビジネスマネジメント論を説いたロングセラー『ゴールは偶然の産物ではない』、『GMの言い分』、『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。 また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』『Oxford Essential Dictionary』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。
向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに大きな喜びを感じる。 グローバル社会の発展とは何かを考え、それに貢献できるように努めている。
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