INTERPRETATION

第37回 Brexit Update! イギリス、来月末にいよいよEU離脱

グリーン裕美

国際舞台で役立つ知識・表現を学ぼう!

皆さん、こんにちは。しばらくご無沙汰して失礼しました。この間、欧州諸国をあちこち行ったり来たりしていました。フランスでは大規模なストライキが続いており(参照記事)、先週末はイギリスに戻れず、次の出張地へ直行するなどの影響を受けたものの、幸いPlan Bはうまく行き、11日に無事帰宅。そして翌日にはいよいよイギリス総選挙の投開票が行われました。

選挙結果は皆さん既にご存知のことと思いますが、キーポイントと英語表現を取り上げます。

1.保守党、圧勝 The Conservatives wins huge majority

7月にジョンソン氏が首相に就任したものの、議会で十分な支持が得られず、結局3カ月間何も進展しないまま10月末の離脱期限を迎え、期限延長&解散総選挙となりました。そこで、与党・保守党(the Conservatives/Tories)は「Let’s get Brexit done!(ブレグジットを実現させよう)」をキャッチコピーに単独過半数確保(to win a majority)を目指して選挙活動を展開。結果的には、保守党の大勝利となりました (the Conservative party has won a big majority)。

「圧勝/大勝/圧倒的過半数」→big win, landslide victory, to power with big majority

2. 労働党、歴史的大敗 Labour suffers a historic loss

一方、最大野党の労働党(Labour Party)は党内でBrexitに関して意見が分かれていたため「中立(neutral)」の立場をとると宣言。つまり、党としては「離脱派」か「残留派」かを明らかにせず、政権に就いた場合は二度目の国民投票 (second referendum)を実施して民意に従うと約束しました。また「社会インフラ事業の国営化」など古き良き時代に戻るような社会政策主義的な政策を掲げていたことも特徴的です。今回の総選挙が決まってから350万人もの有権者(これまで投票したことがない若者が大半)が選挙登録をしたため、これらの票が若者に人気の労働党に集まるのではないかという予測もありました。けれども結局は伝統的に労働党が押さえてきた北東部や北西部でさえも保守党に負け、歴史的大敗となりました(Labour suffered a historic defeat)。

「大敗/大敗北」→ (to suffer)  a crushing defeat, catastrophic defeat

3.ジョー・スウィンソンって誰? Who is Jo Swinson?

労働党に次ぐ野党、自由民主党(Liberal Democrats)の党首(leader)を務めていた若い女性議員。10月末には、自分が次の首相(Britain’s next prime minister)になると勢いよいスピーチで選挙戦を開始しました(参照記事)。Brexitへの態度があいまいな労働党に対し、自由民主党は一貫して「残留」を強く訴え、根強く残る残留派の票をすべて獲得しようという試みでした。けれども、このスピーチの後、どんどん支持を失い、選挙ではなんとスウィンソン氏自身がSNP(スコットランド民族党)に敗北。翌日、党首を辞任。

4.Brexitはどうなる? Is the UK really leaving the EU?

ここ数カ月欧州を訪れる日本の方々から頻繁に聞かれた質問です。やっと答えが出ました。保守党の一番の公約は、2020年1月末(つまり来月末)にEUを離脱すること。残留派の党員を排除したうえで、単独過半数の議席を確保しているので、Johnson’s Brexit Dealと呼ばれるEUとの離脱協定法案は英議会でクリスマス休暇前に可決される見通しです。そうするとジョンソン首相の公約通り、来月末にBrexit実現ということになります。

5.2月1日には何が起きる? What happens on the 1st of February?

何も起きません (Nothing)。離脱協定には2020年12月末までが「移行期間(implementation period)」と規定されています。それまでの間は現状が続き、貿易交渉を含め、今後の関係について協議します。協議事項が膨大なので1年弱で合意に至るのは不可能ではないかという意見も多いのですが、ジョンソン首相は「移行期間の延期はない (there is no intention to extend the implementation period beyond December 2020)」と言っています。日英EPAの交渉も本格化します。

6.スコットランド民族党(Scottish National Party, SNP)って?

スコットランドはイギリス(UK)の中でも独立意識が高く、2014年には住民投票でUKからの離脱の意思が問われました。そのときは僅差で残留派が勝ちましたが、スコットランド人の多くはEU残留を求めています。UKがEUを離脱する、ということは2014年の段階では分からなかったため、現在、スコットランドはイギリスから独立してEUに加盟したいという意見が主流となっています。スコットランドの選挙区では、スコットランドの独立を訴えるSNPが圧勝しました。ということで、再びスコットランド独立に関する住民投票の実施を強く求めています。ただし、ジョンソン首相が承認することはなさそうです。けれどもスペインからの独立を求めるカタルーニャ州のように「違法」で住民投票が行われる可能性は残されています(参照記事)。

7.ブレグジット党(Brexit Party)って?

2016年のEU離脱をめぐる国民投票の選挙戦で離脱派を主導した当時のイギリス独立党(UKIP)党首ナイジェル・ファラージが今年4月に結党。EU離脱の強硬派ですが、翌月の欧州議会議員選挙(参照記事)では29議席を獲得してなんと第1党に! 一時期(6月ごろ)は世論調査の支持率で保守党を追い越す勢いもあり(参照記事)、12月の総選挙でどれくらい議席を獲得できるのか注目されていました。けれども結局離脱派は保守党に投票したので完敗。

以上、総選挙の結果を簡単にまとめました。今まで「国民投票で48%が残留支持」と繰り返し主張されてきましたが、当時残留に投票した人も今ではBrexit疲れもあって(suffering from Brexit fatigue)保守党に一票を投じたようです。長い間足踏み状態が続いていたイギリスですが、やっと前進できそうです。

2019年12月15日

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記事を書いた人

グリーン裕美

外大英米語学科卒。日本で英語講師をした後、結婚を機に1997年渡英。
英国では、フリーランス翻訳・通訳、教育に従事。
ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。
元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。
英国翻訳通訳協会(ITI)正会員(会議通訳・ビジネス通訳・翻訳)。
2018年ITI通訳認定試験で最優秀賞を受賞。
グリンズ・アカデミー運営。二児の母。
国際会議(UN、EU、OECD、TICADなど)、法廷、ビジネス会議、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)などの通訳以外に、 翻訳では、ビジネスマネジメント論を説いたロングセラー『ゴールは偶然の産物ではない』、『GMの言い分』、『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。 また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』『Oxford Essential Dictionary』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。
向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに大きな喜びを感じる。 グローバル社会の発展とは何かを考え、それに貢献できるように努めている。
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