INTERPRETATION

第48回 「オーバーシュート」 英語で言うと?

グリーン裕美

国際舞台で役立つ知識・表現を学ぼう!

新型コロナウイルスの感染拡大に伴いカタカナ語の使用が増えています。河野防衛相がTwitterで「クラスター」「オーバーシュート」「ロックダウン」について  「どうして『集団感染』『感染爆発』『都市封鎖』ではダメなのか」 とつぶやいて話題になりました。日本語ではカタカナと漢字の複合語では読み手・聞き手の印象がかなり異なります。専門家によると意味も微妙に異なるようですが、本コラムでは日本語でどちらを使うべきかという議論は脇に置いて、英語では何というかを考えてみたいと思います。

「クラスター」と「ロックダウン」については迷う必要はありません。それぞれ、cluster、lockdownという英語が同じような意味で使われています。ただしlockdownという英語はアクセントが第1音節。[lɔ́kdə̀un] と2音節で発音するので、カタカナ語とは響きがかなり異なります。clusterも [klʌ́stər] 、2音節でアクセントだ第1音節。カタカナ語の発音に馴染んでしまうと英語で話すときもカタカナ発音になりがちなので要注意です。

さて、問題は「オーバーシュート」です。コロナ関連の報道で日本語では「オーバーシュート」が頻出ですが、英語で overshoot はあまり聞きません。試しに「コロナウイルス オーバーシュート」でグーグル検索すると2780万件のヒット数(2020年4月6日付)。一方「coronavirus overshoot」の場合は42万5千件と少ないだけでなく、ほぼすべてが日本語報道の翻訳記事であり、”overshoot”と引用符付き、説明文付きです。意味を考えても「オーバーシュート」はそのままovershootと訳すのは不適切。

じゃあどう言えばいいのでしょうか。まずは「オーバーシュート」の定義を確認。これは、日本の報道で「爆発的な患者の増加」「爆発的患者急増(医療体制が追い付かない医療崩壊の状態」などと説明されています。

一方、日系の英語報道では an explosive rise in casesan explosive spike in coronavirus infections in which the number of patients doubles within two to three daysなどとovershootの説明がされています。イギリスの報道でも珍しくovershootが使われていると思ったらwhere more people get infected than you would need if it were to run at a lower peak(感染防止策を取った場合を基準とし、策を講じない場合に感染する人の数)と説明されていて日本で使われている定義とは異なります。英語のovershootは一般用語で「(目的地などを)行き過ぎる、オーバーランする」「(目標を)外す」「(限度・目標を)超える」などの意で使われます。過去形はovershot。

いずれにしても「オーバーシュート」の定訳はなく、「爆発的な/急激な」explosive / exponential / rapid、「増加/急増」increase / growth / rise/ spike/ surge、「患者/感染者」はpatientsではなくcases / infections。これらの語を組み合わせて、an exponential surge of Covid-19 cases, an explosive increase in coronavirus disease などと表現できそうです。広義では a (new) big outbreak とも。

以上、「オーバーシュート」を訳す際の参考になれば幸いです。

ところで日本もついに緊急事態宣言がありましたが、こちらイギリスではロックダウンに入って2週間。私自身は、自宅待機の生活(self-isolation) に入って4週間になりました。「○○時にXXへ行かなければ」という約束がないと、ダラダラして食べ過ぎ、運動不足にもなりがちですが、Zoomをフル活用してなるべく規則的な生活を心がけています。大学院やグリンズアカデミーの授業、オンライン自習室がZoomで行われているので孤独感はないです。愚息も帰ってきてにぎやか。YouTube動画を見て運動したり、散歩に行ったりして、1日1万1千歩を目指していますが、毎日の達成は難しいです。ロンドン郊外なので、少し歩くと田園風景でsocial distancingもそれほど難しくなくまだ恵まれているほうかなと思います。あっ、social distancingの訳語についてはまた別の機会に。危機状態はしばらく続きそうですが、ちょっとした工夫で少しでも快適に過ごせるといいですね。

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記事を書いた人

グリーン裕美

外大英米語学科卒。日本で英語講師をした後、結婚を機に1997年渡英。
英国では、フリーランス翻訳・通訳、教育に従事。
ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。
元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。
英国翻訳通訳協会(ITI)正会員(会議通訳・ビジネス通訳・翻訳)。
2018年ITI通訳認定試験で最優秀賞を受賞。
グリンズ・アカデミー運営。二児の母。
国際会議(UN、EU、OECD、TICADなど)、法廷、ビジネス会議、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)などの通訳以外に、 翻訳では、ビジネスマネジメント論を説いたロングセラー『ゴールは偶然の産物ではない』、『GMの言い分』、『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。 また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』『Oxford Essential Dictionary』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。
向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに大きな喜びを感じる。 グローバル社会の発展とは何かを考え、それに貢献できるように努めている。
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