INTERPRETATION

第22回 お月さまとお星さま

寺田 真理子

マリコがゆく

間違いは誰にでもあるものです。そう、もちろん、通訳にも・・・。

なんだか冒頭から開き直ってしまっていますが。でも、通訳って、人様の前で間違えたり、恥をかいたりするのが仕事みたいなものですよねそれにいちいち落ち込んでいたら、こんな仕事はつとまりません。

デビューしたての初々しい頃には、間違ってしまうと申し訳ないやら恥ずかしいやら、消え入りたいような思いでしたが。最近は、「あら、失礼」くらいの感じです。通訳をしていると、通訳技術の進歩よりも面の皮がすごい勢いで厚くなるから、そのおかげで仕事を続けていけるんじゃないかしら・・・?挙句の果てに、ミスをしても、「おもしろいネタを拾っちゃった~」なんて喜んでいる始末です。

こんなミスも、やっちゃいました。
「ないものねだりをするよりも・・・」
これを訳すのに「ないものねだり」を”asking for the moon”と言うはずが、何を思ったか”shooting a star”と言ってしまいました。本人は「バッチリ!」とか思っているのに、それを聞いた外国人側が「?」という顔をしているので、「あれ?おかしいなあ」と思ったんですよね。ウィスパリング通訳だったので、突っ込まれることもなくどんどん話は進んでいきましたが。そりゃ、わかんないですよね。”shooting star”(流れ星)というのが頭の中にあったからでしょうか?

あつかましくもわたしは、「ちょっとポエムっぽい表現だから、外資系の乾いた人はあまり使わないのかしら?詩心が無いって、よくないわよねえ。人間、もっと潤いがないと」なんて思っていたんですが。だから、自分が通訳間違えてるんだってば!!

でも、ミスに気付いてもわたしはめげません。

「お月さまとお星さまを間違えるなんて!ファンシーなミスだわ~」

なにせ、”contradictive”と”contraceptive”をしょっちゅう間違えそうになってドキドキしてしまうわたしのこと。それに比べたら、なんてかわいいミスでしょう。

喜んでいるくらいじゃないと、通訳なんてつとまらないのです。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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