INTERPRETATION

第21回 通訳の忘却力

寺田 真理子

マリコがゆく

なんでもかんでも忘れてしまいます。

やっぱりこれは、通訳を続けてきたせいなんでしょうか?訳し終わったその瞬間に、頭の中から削除されてしまいます。たまに、お客さまが聞き逃していたりして、「あ、ごめん、今のところ、もう1回言ってくれる?」なんて頼まれてしまうことがありますが、もう無理です。だって、頭の中に残ってないんですから。

ミーティングの内容も、「たしか、これに関係する話は前回にもしたのよねえ~」というおぼろげな記憶はあっても、何をどう決めたかということになると、まったく思い出せなかったりするのです。連続シリーズのミーティングなのに、最初からウンウンうなりながら資料を読み直したりして。「う~ん、前にも読んだんだけどなあ・・・」と思いながら。

訳し終わるまでの記憶力はかなりあるほうだと思うのですが。もちろん内容にもよりますが、10分、15分くらいなら、ほぼもらさずに再構築できるはずなのに。訳してしまうと、見事に頭の中から消えていきますねえ・・・。

お客さまにとっては、これほど守秘義務を守れる安心感のある人はいないでしょう。会議が終わったら、頭の中が初期化されちゃってるんですから!

仕事だけならまだいいのですが。困ったことに、私生活での忘却力もやたらアップしてしまった気がします。たとえば、2階に本をとりに行って、2階に行ったらお茶が飲みたくなって急須にお湯を入れて、しばらく置いている間にメールチェックをしようと思い立ち、PCを立ち上げたら調べ物を思い出して、検索したら面白そうなサイトが出てきてそれを見ていたり。結局、本も、お茶も、メールチェックも調べ物もそのまんま・・・。こんなことがしょっちゅうです。そんなときに感じることはといえば。

「その時その時で、いちばんやりたいことをやっているからいいのよね!」

そうです。問題があることすら、忘れているのです。

通訳のみなさん、忘却力の鍛えすぎにはご用心くださいね!

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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