INTERPRETATION

ぶら下がり取材

木内 裕也

オリンピック通訳

スポーツ大会では色々な場面で記者会見やインタビューが行われます。海外のチームや選手が日本に到着すれば、到着記者会見。事前キャンプ地に行ったり、試合会場近くのキャンプ地に到着すれば、そこで会見。試合が近づけば、登録選手の発表に関する会見があったり、試合前日の会見があったり。実際に会見のシーンをTVなどで目にすることもありますし、新聞などで色々な情報が私たちのもとに届くのは、これらの会見があるからです。

全ての会見に通訳者が派遣されるわけではありません。しかし多くの会見で通訳者が使われます。これらの会見の中で、柔軟性が求められるものの1つに「ミックスゾーン」と呼ばれるものがあります。これは色々な競技で行われるインタビューで(競技によって呼び方が違うことはありますが)、ぶら下がり取材をイメージすると分かりやすいでしょう。

選手や監督などスタッフに対し、立ったままマイクやカメラを向けます。練習会場からシャワールームに行くまでの通り道であったり、試合後に更衣室からバスに乗るまでのスペースであったり、「公式会見」とは違ったイメージのシーンです。

これらのスペースでは、メディアや記者も「質問を口にしたもの勝ち」です。そうすると、英語が得意ではない日本人の記者は、どうしても外国人選手に対して質問をしにくい、ということがあります。その中でも積極的に日本語で質問をし、近くにいる通訳者と協力してコメントをもらう人も多いですが、複雑さは否めません。そんな時に記者の人々からお願いされたり、また通訳者が機転を利かせて対応することで喜ばれるのは、外国人記者と外国人選手のやり取りをひたすらメモ取りをし、インタビュー後に訳すということ。

この様なぶら下がり取材は長時間行うものではなく、長くても10分程度。その間、通訳者は必死にメモを取り続けます。逐次通訳をする時間の余裕はないですし、ウイスパリングをするには周囲が騒がしすぎます。そこでメモを取り、選手がいなくなった時に訳をするのです。何十人もの記者に囲まれ、ボイスレコーダーを目の前に出され、そこで訳をするのはなかなか珍しい経験ですし、少し離れたところから私が訳す姿を見ていた人には、「有名人みたいでしたよ」と冗談で言われたこともあります。

オリンピックを含め、大きな大会の会見やインタビューは競技場内にある専門のインタビュールームやホテルの会見場を想像するかもしれません。もちろんそのような場での仕事も多いですが、こういった臨機応変な対応も大切です。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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