INTERPRETATION

通訳者のマナー

木内 裕也

オリンピック通訳

前回の投稿で、なかなかスポーツイベントの通訳者は試合を観る機会がないと書きました。とはいえ、試合中に待機している部屋のすぐ近くで試合が行われていたり、有名選手が目の前を通ることもよくあります。控室にいると、観客の歓声が聞こえてくることはあるでしょう。時に試合会場でVIPの通訳をすると、試合前後のセレモニーで通訳をしても、自分だけは試合が見られないことは少なくありません。「それではあと5分で試合開始ですから、皆さん、客席に移動をお願いします」と訳して、自分だけ控室、という経験を私もしました。とはいえ、発給されているIDを使って試合会場内に入ろうと思えば簡単に入ることができる場合もあるでしょうし、大会の後半になれば選手と顔見知りになることもあるでしょう。

しかし通訳者として仕事をいただき、IDを付与されているので、「試合を観てみたい」という誘惑に打ち勝つことは大切です。私がずっと前にボランティアとしてあるスポーツ大会に参加した時には、「せめてボランティアの人に選手の姿を見せてあげたい」という大会側の配慮で、何度か練習の様子を見学することができました。しかしこれはボランティアとして参加したからでしょう。仕事として参加している場合、そのような機会は少ないです。

スポーツの大会では雰囲気も明るく楽しいですし、お祭りの雰囲気に囲まれています。IDを持っている人にはセキュリティーが甘く、「業務として本当に必要であるエリアにアクセスしているのか」「業務として不必要なことをしていないか」という視点からのチェックが少ない場合もあります。その様な時にもきちんとした行動をすることが、通訳者としての当たり前の行動であると再確認をしておくことが必要でもあります。

通常の会議などでは通訳者のためだけの控室が用意されていることがほとんどです。しかしスポーツイベントでは通訳者のための控室が無く、他のスタッフと一緒の控室を使用することも少なくありません。そうすると、何の気なしに通訳者が控室においてある軽食やコーヒーなどに手を伸ばして、クレームに繋がることもあります。「控室にあったから、一口頂いた」という通訳者側の考えがあっても、「控室を提供しただけである」という組織側の考えと一致しない可能性があります。こういった部分にも気を使うことが必要でしょう。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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