TRANSLATION

第7回 どうやって分野を絞ればいいの?

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

それでは、どうやって分野を絞ればいいのでしょう? 私自身の経験からお伝えしていきますね。

翻訳の仕事をしようと考えたとき、想定した分野が3つあります。1つ目は「IT関係」、2つ目は「アニメやゲーム」、3つ目が「認知症ケア」でした。

1つ目の「IT関係」は、それまで長くIT関係の通訳をしていたので知識もあり、ニーズもあると考えました。2つ目の「アニメやゲーム」は、日本が国として売りにしているだけに、今後も伸びると見込んだのです。3つ目の「認知症ケア」は、個人的な興味、関心から選んだものでした。

1つ目の「IT関係」は、たしかに長年続けてきてはいたものの、個人的にはまったく関心の持てない分野でした。2つ目の「アニメやゲーム」も、興味は持てず、情報収集のために足を運んだイベントでは、会場の雰囲気が肌に合わずに具合が悪くなる始末(笑)。結局、この2つの分野を手がけることはありませんでした。

だけど3つ目の「認知症ケア」は別でした。私が認知症に興味を持ったのは、自分自身がうつ病を経験したからです。大幅に処理能力が落ちてしまい、それまでできていた日常生活の基本的なことすらできなくなりました。バッグからお財布を取り出そうとしても、バッグのファスナーを開けなければいけないのがわからず、パニックに……。そんな症状が認知症と似ていることを知り、興味を持ったのです。個人的な強い思いがあったからこそ、仕事につながったのでしょう。

いまにして思えば、1つ目の「IT関係」も、2つ目の「アニメやゲーム」も、「世の中にこういうニーズがあるだろう」という外側からの理由で考えたものでした。頭で選んでいたのです。だけど3つ目の「認知症ケア」は、実際に自分の心が動いたもの、心で選んだものだったのです。

仕事となると、どうしても頭で選ぼうとしがちです。だけど一冊の本を翻訳することは、心身ともに消耗するものです。それだけのエネルギーを注ぎ込めるものを見つけるために、ぜひあなたの心で選んでみてください。それに、心で選んだものが相手なら、あなたから湧き上がるエネルギーもまったく違うはずですよ。

分野を絞ると、実際にこれからやることを勉強するので楽しいですし、身につきます。料理の本を翻訳したいと思っている人が学校で金融翻訳を勉強しても、興味も持てず、身につかないでしょう。

それなら料理に特化して、その翻訳に求められるものは何かを考えて勉強していくほうが、ずっと近道です。調理法や調味料に関する用語であったり、料理の歴史だったり、活躍しているシェフだったり……語学に限らず、必要な背景知識で、勉強することはたくさんあるはずです。

人によってはその過程で「料理の本を翻訳したいと思っていたけれど、実は料理についての海外の情報を発信したかったんだ」と気づくこともあるでしょう。それならいまの時代は情報発信手段がたくさんあるのですから、それを使って発信していけばいいと思います。そこからまた何か新しい活動につながっていくかもしれません。

だけどやっぱり「自分は料理の本の翻訳がしたいんだ」と思ったら……そこで次の魔法を使いましょう。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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