TRANSLATION

第9回 出版翻訳する価値があるかを見極める

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

「これは」と思う原書が見つかったら、熱い気持ちをひとまず抑え、クールな頭でこう考えましょう。

「この本を出版翻訳する価値があるの?」

原書への思い入れが強いと、「早くこれを翻訳して世の中に届けたい!」と思ってしまいます。だけど出版翻訳したとして、本当に読者がいるのでしょうか? 世の中に新しい価値を提供できるのでしょうか?

たとえば、料理の本を翻訳したいと思って、気に入った原書を見つけたとします。だけどそれが芸術的な料理を眺めるための写真集で、原書のままで楽しめるとしたら、翻訳のニーズはないですよね。

あるいは、調理法についての本で、関連書がすでに多数出版されていたら、やはり翻訳のニーズはないでしょう。けれども、その調理法の最新事例を網羅しているなどの新規性があれば、ニーズはあるでしょうし、関連書が多いことも市場があるという裏づけになりますよね。

翻訳したとして読者がいるだろうか、自分だったら読みたいだろうか、いまの世の中に提供できる価値があるだろうか……と考えてみてください。

パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』も、原書は刊行時に取り寄せていたものの、翻訳を検討したときには10年ほど経過していました。だけどその時点で読んでも、内容がまったく古くなかったのです。「10年たっても陳腐化しないものなら、今後10年は読み続けてもらえるだろう」と考えたことが、翻訳する背中を押してくれました。

最新の技術に関する本などは、どうしても陳腐化するのも早いものです。もちろん、最新情報を読者に届けるのは意義のあることですが、翻訳のために注ぐエネルギーを考えたとき、「今後10年、20年たっても価値が損なわれずに読んでもらえる」という、時間軸に耐えられることもひとつの指標になるのではないでしょうか。

そのうえで何より大切なのは、自分がその原書に惚れ込めること。

一冊の本を訳して世の中に送り出すのは、本当に大変です。「こんなに大変なのか……」「こんなに手がかかるのか……」ときっと思うはず。エネルギーもものすごく消耗します。それを乗り越える力になるのが、原書への愛情です。それだけの気持ちを持てるものを見つけてくださいね。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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