TRANSLATION

第228回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート㊼

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

今回登場するのは、学術書を選んだSさんです。Sさんを著者のAさんにおつなぎし、企画書と試訳をお預けしていました。

Aさんはしばらくお仕事でご多忙だったのですが、1か月ほど経って時間ができたとのことで、お付き合いのある出版社に打診してくださいました。すると、試訳を読んだうえで関心を持ってくれた編集者さんがいたのです。Aさんによれば、何冊もの良い本を編集されている方だそうです。この編集者さんから、とりあえずSさんのお話を聞いてみたいので、直接連絡が欲しいというリクエストがありました。

そこで、Sさんがご連絡をしたところ、編集者さんとお会いできることになりました。これはとてもいい展開だと感じました。もちろん、お会いしたからといってすぐに出版に結びつくものではありませんが、かなり関心を持ってくれていることはたしかです。

お会いする際に、編集者さんは「本のより詳しい内容」と「企画、原書に対するSさんの思い」を聞きたいとのこと。Sさんからは、後者については自分の思いを伝えるだけだと捉えているけれども、前者についてどう捉えればいいのか、ご質問がありました。私の経験からの具体例や、もし私がSさんの企画に興味を持った編集者さんだった場合に「面白そう」と感じた部分はどこなのかを知りたいそうです。

Sさんとしては修士課程で題材に扱うほど関心を持っていた分野であるものの、周りの方に「どうしてそれに興味を持つようになったの?」と訊かれることが何度もあり、「面白そう」と感じてくださった方にどんなふうに映っているのか参考にしたいとのことです。

編集者さんは企画書をすでに見てくださっていますが、ひと通りまずは企画書にあるような基本事項を口頭でもお伝えしてみるようにSさんにはアドバイスしました。その際、編集者さんがどのあたりに関心があるか、よく注意を払うようにすることです。「明らかにそこは興味がなさそう」という場合に、気づかずに話し続けていると、全体の雰囲気もぎこちなくなってしまいます。編集者さんの反応のいいところで話を深めていくようにしましょう。ただ、もし難しそうであれば、「どのあたりを詳しくご紹介しましょうか?」と訊いてみてもいいでしょう。

この進め方について、Sさんは、「自分の中でも一度全体を確認してから進めるので緊張を和らげることができそうです」とのこと。たしかに、はじめて編集者さんとお話するのは緊張するものですので、それを和らげるためにも活用できそうですね。

編集者さんが関心を持ってくれたということは、そのバックグラウンドと重なる部分があるのかもしれません。「どうしてこの企画にご興味を持ってくださったんですか?」とお尋ねして、編集者さんご自身のお話を伺ってみるのもいいでしょう。そうするとお互いの認識のすり合わせもできますし、気持ちの上でも、一緒にお仕事をしていく方向に向かえると思います。

Sさんの企画は、人文書が好きなタイプにとっては、興味を引かれる内容だと思います。単純に、「人が何かにすごく興味を持っていること自体が他人から見ると興味深い」というのもありますよね。一般読者にも人気の学術書などは、著者の熱量が面白いというか、「なぜその対象にそこまでのめりこむの?」というところが魅力のひとつでしょう。そういう意味では、企画への思いを熱く語っているだけでも、それは魅力になるのです。

また、面白さはディテールに宿るものです。もし試訳に登場していない印象的な事例があれば、そのお話もできるようにしておくことをおすすめしました。このアドバイスを受けて、Sさんは原書を読み返し、試訳に登場していない部分もお伝えできるように整理しておくことにしました。

他に、当日気をつけるべきことをご質問いただいたので、お話がうまく進むという想定で、今後の進め方(そのまま進められるのか、これから社内の企画会議にかけるのか、いつ頃出版の予定で進めるのかなど)も最後に確認しておくことをお伝えしました。あとは名刺や編集者さんのご連絡先、原書や関連資料などを忘れずにお持ちいただくことくらい、とごく簡単な持ち物確認のつもりでお伝えしたら、ここに意外な盲点が!

というのは、Sさんは以前のお仕事を退職後、名刺がなくても済む内容のお仕事を単発で受けていたため、名刺の存在をすっかり忘れていたのです。たしかに、お仕事によってはまったく使わないこともありますよね。私もコロナ禍でオンラインに移行してからは「あの四角い小さな紙きれはいったい何だったんだろう……。この先また使う機会はあるんだろうか……」という感じでしたが、対面のお仕事が増えてくると、世の常識とは不思議なもので、やはりまずは名刺交換になるんですよね。

というわけで急いで名刺も用意し、編集者さんにお会いする用意ができたSさん。いよいよ当日……次回に続きます!

【勉強でも娯楽でもない「癒し」としての読書の可能性とは?】というインタビュー記事が掲載されました。よかったらご覧になってみてください。

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Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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