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第248回 ChatGPTは出版翻訳企画の持ち込みに使えるの?①

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

この連載の読者には、ChatGPTを活用されている方はどれくらいいらっしゃるのでしょうか? 職種によってはかなり使いこなすのでしょうし、先日会った友人などは終日相手をしてもらっているようで、「久々にChatGPT以外の相手と会話をした」と言って喜んでくれました。生身の人間であるだけでこれほど喜んでもらえるとは……(笑)

私の場合は、執筆関連のアイデア出しに活用しています。書いた文章に見出しをつける時など、「この言葉を入れた表現にして」「もっと違うパターンで」「もっとキャッチーに」という具合に、リクエストをして考えてもらうのです。自分では思いつかないようなフレーズが出てきて、「これはいい」と採用することも結構あります。わがままなリクエストに対しても、何度でも付き合ってくれるところが気に入っています。

そんな中、「もしかして、これって出版翻訳企画の持ち込みにも使えるのかしら?」という疑問を持ちました。事業のコンサルティングに活用している方もいるそうですし、それならば……。

というわけで、早速検証してみることにしました。具体的な事例のほうがいいと思い、実際に私が持ち込みをしていた企画について、こんなふうに尋ねてみたのです。

「私は現在、翻訳家として仕事をしています。ぜひ日本で紹介したい本があり、出版してくれるところを探しています。鳥が登場する絵本で、鮮やかな色彩が特徴です。多様性をテーマにした内容になっています。どこの出版社に持ち込めばいいでしょうか?」

まず、無料で使えるChatGPT-3.5では、こんな回答が返ってきました。

“素晴らしいですね!日本の出版社に作品を持ち込む際には、いくつかのステップを踏むと良いでしょう。

リサーチを行う:
日本の出版社の中で、特に絵本や子供向けの本に力を入れているところをリサーチします。例えば、偏差値や評価が高い出版社や、多様性や鮮やかな色彩を重視しているところを見つけることが重要です。

出版社に連絡する:
選んだ出版社に直接メールや電話で連絡し、簡単な紹介文と共に作品の概要を送りましょう。興味を持ってくれた場合、詳細な提案や原稿を送るようにお願いします。

エージェントを利用する:
日本の出版市場は特有のルールや文化があります。もし可能であれば、日本の出版エージェントを利用することが勧められます。エージェントは地元の出版社とのつながりがあり、適切なアプローチや提案を助けてくれることがあります。

出版社のイベントやコンテストに参加する:
出版社が主催するイベントやコンテストに参加することも一つの方法です。こうした場で作品を披露することで、興味を引きやすくなります。

ネットワーキング:
産業関連のイベントやセミナーに参加し、関係者とのネットワーキングを行うことも役立ちます。関係者とのつながりが、あなたの作品が注目される手助けになる可能性があります。

例えば、日本の出版社の中で子供向けの本に強みを持つ出版社として、福音館書店や偕成社、ポプラ社などが挙げられます。ただし、個々の出版社の方針や要件は異なるため、具体的な出版社を選ぶ前に、それらの出版社のウェブサイトや担当者に直接問い合わせて、ガイドラインや提出要項を確認することが重要です。”

具体的なアドバイスというよりは一般論ですが、それでも、はじめて持ち込みをしようとして、何をどうすればいいかわからない方にとっては、ちゃんと方向性を示してくれています。

次に、ChatGPT-4を搭載したBing(ChatGPT4は有料ですが、Bingは無料で使えます)で同じ質問を試してみたところ、こんな回答が出ました。

“こんにちは、これはBingです。翻訳家として仕事をされているのですね。素晴らしいですね😊

鳥が登場する絵本で、鮮やかな色彩が特徴で、多様性をテーマにした内容ということですね。私はウェブ検索の結果から、日本の出版社の中で、鳥に関する絵本を多く出版しているところをいくつか見つけました。それらは以下の通りです。

  • 偕成社:『ことりをすきになった山』や『ことりの くるひ』など、鳥の生態や心情を描いた絵本を出版しています。鳥の絵本の専門家として知られる岩崎ちひろさんの作品も多くあります。
  • パイ インターナショナル:『世界の美しい鳥』や『きれいですごい鳥』など、鳥の美しさや多様性を紹介する絵本を出版しています。鳥の写真やイラストが鮮やかで見応えがあります。
  • ポプラ社:『とりさん なんの ぎょうれつ?』や『とりのおうさま』など、鳥のキャラクターが活躍するファンタジーな絵本を出版しています。鳥の種類や特徴を楽しく学べる絵本もあります。

これらの出版社は、鳥に関する絵本に強いと思われますので、あなたの翻訳したい本に興味を持ってくれる可能性が高いと思います。もちろん、他にも鳥に関する絵本を出版している出版社はたくさんありますので、ウェブ検索の結果を参考にしてみてください。

私はあなたの翻訳したい本が日本で出版されることを願っています。頑張ってくださいね😊”

こちらのほうは「鳥」をキーワードに、もっと具体的な提案をしてくれました。企画書をつくるために類書を調べる時など、参考にできそうです。この回答は絵本ナビでの検索結果をもとに作成されていました。私は類書を調べる際にはついAmazonばかりチェックしてしまうのですが、絵本の場合は絵本ナビのほうが参考になる情報が取得しやすいのかもしれません。どんなサイトを調べればいいのかという点でも、参考になる回答でした。

それにしても、岩崎ちひろがなぜ鳥の絵本の専門家に……!? 時々こうしてしれっと作話をしたり、実在しない本のタイトルをでっちあげたりもするので、そのあたりは気をつけないといけませんね。

とはいえ、ある程度役立ちそうな感触が得られたところで、もっと提案の精度を上げられないかと考えました。そこで、とある設定をしてみます。それは……次回に続きます!

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※出版翻訳に関する個別のご相談はコンサルティングで対応しています。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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