TRANSLATION

第259回 4年越しの企画がついに実現!⑧

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

4年越しで取り組んできた企画についてのレポートです。介護情報誌での「連載の書籍化」という形で実現できることになり、初回の連載で特集を組んでいただいたところまでをお伝えしていました。

この特集は介護現場の方々にもインパクトがあったようで、「よくぞこのテーマを扱ってくれた」というお声もいただきました。

特集号に続いて、「事例で学ぶ『認知症と性とウェルビーイング』」というタイトルで連載をさせていただいています。原書の中から事例を毎回2つ取り上げて、それぞれの翻訳に訳者解説をつけてご紹介する形式です。事例だけでは、どうしても日本の介護現場と距離があります。訳者解説でそこをつなげることで、遠い海外の話ではなく、身近なこととして考えていただけるように構成しています。

連載には、日本の介護現場の方からの寄稿文もあります。翻訳ものと解説だけではまだ遠く感じてしまう読者にも、この介護情報誌でおなじみの現場の方々の寄稿文があることで、ぐんと親しみやすくなっているのではないかと思います。

翻訳書の内容を日本の読者がどう受け止めたのかは、通常は刊行後の感想でしか知ることができませんが、今回は連載によって、どう届いているのかを知ることができています。このことは、本書をどう日本の読者に届けるかを考えるうえで役立ってくれています。

テーマが『認知症と性とウェルビーイング』ということで、これまで見て見ぬふりをしてきた方も多いようです。でも、そこに目を向けてみると、実は日本の現場にも多くのエピソードがありました。中にはまさに抱腹絶倒のものもあり、寄稿文を読みながら涙を流して笑い転げてしまいました。

特集号に読者の方々から長文のご感想を多くお寄せいただいたことから、最新号ではその一部をご紹介しています。それを読むと、このテーマに関して各自がこれまでの人生で何かしら引っかかることがあったのだとわかります。ただ、これまではそれを表面化するきっかけがなかったのですね。それが、特集号での問題提起がきっかけとなって「そういえば、あの時……」と表面化され、考えられるようになったのです。

そのためには、翻訳ものというのはやはり適切な距離感なのだと思いました。翻訳ものであるがゆえに読者に届きづらかったり、伝え方に工夫が必要だったりする部分もありますが、翻訳ものだからこその距離感がうまく機能してくれたと思うのです。もしこれが日本の現場からの直接的な問題提起であれば、生々しすぎて、かえってうまく届かなかったのではないでしょうか。下手をすれば炎上してしまっていたかもしれません。だけど翻訳ものであることで、冷静に受け止めて、考えて、話をしていくきっかけになったのだと思います。

翻訳書だからこそ果たせる役割があることを実感できて、意を強くしています。今後も連載を通して読者層を広げつつ、書籍化に向けて動いていきます。また追って随時レポートしていきますね。

※この連載を書籍化した『翻訳家になるための7つのステップ 知っておきたい「翻訳以外」のこと』が発売中です。電子書籍でもお求めいただけますので、あわせてご活用くださいね。

※出版翻訳に関する個別のご相談はコンサルティングで対応しています。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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