TRANSLATION

第277回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート54

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

出版翻訳家デビューサポート企画にご応募くださったみなさま、ありがとうございました! 新たに第2期生を迎えましたので、今後の連載でご紹介していければと思います。

今回レポートするのは、絵本を選んだIさんです。実は、Iさんは第1期生としてアーティストの評伝の企画の持ち込みをされています。そちらの持ち込みを続ける一方で、また別の企画で応募してくださいました。第1期生のご応募は想定外でしたが(笑)、Iさんのバイタリティに感心するとともに、選ばれた原書にも興味を惹かれました。

原書は、シリアスなテーマを扱った大人向けの絵本です。同じテーマを扱った作品自体は多いものの、この作品のようなアプローチは珍しいと思いました。文章のみの本には同様のアプローチも見かけますが、絵本では見たことがありません。必要としている読者も多いように感じました。

Iさんからは企画書と試訳をお送りいただきました。試訳には、絵本から抜粋された絵もサンプルとして掲載されています。拝見して気になったのは、絵本の説明とサンプルの内容の不一致でした。説明文では絵柄の軽やかさについて言及されていて、それが癒しになるとのことでした。たしかに一部の絵は該当するのですが、重い雰囲気の絵が多い印象を受けました。「シリアスなテーマにシリアスに向き合う本」という感じで、読んで癒されることがイメージしづらいのです。

そこで、IさんとのZOOMミーティングの際に、原書を見せていただきました。すると、たしかに軽やかさも感じますし、サンプルから想像するよりもずっと華やかで、気持ちが明るくなりそうな本でした。どの絵を選んで紹介するかによって印象がかなり変わってきますので、もう一度考えて選び直していただくようにIさんにはお伝えしました。

もうひとつ気になったのは、ページ数の多さです。よくある絵本は32ページなのですが、本書は100ページを超えていて、絵本としてはかなり厚手になります。そうすると価格が高くなるので、購入してくれる読者が限られてしまうのです。

原著者や原書の出版社の意向にもよりますが、体裁を変えても構わないということであれば、絵本ではなく、フルカラーの一般書として出版するのもひとつの方法かと思います。もしかしたら、そのほうが価格面でも、アプローチできる読者数の面でも、いい結果につながるかもしれません。

本書では付録も充実していて、おすすめの本や関連団体が紹介されています。こういう場合、それがどの程度日本で通用するのかを検討する必要があります。Iさんによれば、おすすめ本のおそらく半分くらいは日本でも翻訳されているとのこと。このあたりはもう少し調べて、具体的な書名を含め、情報を用意しておいたほうがいいでしょう。また、関連団体については、日本にそのまま通用するものは少ないでしょうから、日本での同様の団体を紹介していくことになると思います。心当たりがあれば、関連情報を整理しておいてもいいかもしれません。

Iさんとしては、本書を美しい上製本に仕上げたいというよりは、手に取りやすい価格で普及させてくれる出版社から刊行することで、あまり本を読まない層にも届けたいとのこと。その観点から、持ち込み先として候補に考えている出版社がありました。

また、私のほうでも、思いあたる出版社がありました。基本的に翻訳書は手がけていないので難しいかもしれませんが、テーマに関心を持ってくださる編集者さんが思い浮かんだことと、その出版社の手がける雑誌などの読者層と本書の読者層が近いことから、広がりが期待できると考えて提案させていただきました。

フィードバックを受けて、Iさんはまず必要な修正をしたうえで、今回名前の挙がった出版社に順に持ち込みをしていくことになりました。また随時レポートしていきますね!

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Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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