TRANSLATION

YesとNoの訳し方に気をつける

宮崎 伸治

出版翻訳家による和訳レッスン

今回は、YesとNoの訳しかたを考えてみましょう。

他人から何かを質問されたとき、英語ではその質問が肯定であろうが否定であろうが関係なく、内容自体を肯定する場合はYes、否定する場合はNoと言いますが、これは日本語と異なるところです。

わかりやすいように例を出して説明しましょう。

Can you speak French? フランス語は話せますか?

Yes, I can. はい、話せます。

No, I can’t. いいえ、話せません。

Can’t you speak French? フランス語話せないんですか?

Yes, I can. いいえ、話せます。

No, I can’t. はい、話せません。

これらの例のようにYesやNoのあとにI can とかI can’t と続いていればまだしも、YesまたはNoだけで終わってしまうと、それが「はい」なのか「いいえ」なのか瞬時に理解するのは難しいものです。この違いに慣れるまでには、けっこう時間がかかるものですが、間違えないように気を付けましょう。

また、次の点も気をつけましょう。

May I smoke? たばこを吸ってもいいですか?

Yes. いいですよ。

No. ダメです。

Do you mind if I smoke? たばこを吸ってもいいですか?

Yes. ダメです。

No. いいですよ。

「たばこを吸ってもいいですか?」と訊くつもりで、Do you mind if I smoke? と訊いて、No.と答えられたら、「吸ってはダメ」といわれたような感じがしてドキッとするものです。なぜならDo you mind if I smoke?と訊いている本人が頭の中では「たばこを吸ってもいいですか」と訊いたつもりになっていて、それが否定された感じがするからです。

しかし、”Do you mind if I smoke?” は「タバコを吸ってもいいですか?」というより、より正確に訳すとすれば、「私がタバコを吸っても気にしませんか?」という意味です。

私自身、イギリス留学時代に”Do you mind if~”を使って「~してもいいですか?」と訊いたつもりでNoと答えられ、ドキッとしたものの、あとで冷静になって考えてみれば、相手は「いいです」と答えてくれていたことに気づいたことが多々ありました。

さて、ではこのYesとNoの訳し方を例をあげて検討してみましょう。

次の文は「採用面接を受けるときにはどんな色の服を着るべきか」というQ&Aです。下線部に特に注意しながら読んでみましょう。

Q:I am interviewing for my fist job.  The place where I want to work has a casual atmosphere, but shouldn’t I dress very elegantly?

A: Actually, no.  Stick with khakis and a light blue shirt.

直訳:Q「はじめて採用面接を受けることになりました。カジュアルな雰囲気の会社ですが、あまり派手な服は着ないほうがよいでしょうか?」

A「じっさい、着ないべきです。カーキーと明るい青のシャツを着るべきです」

先にも説明したとおり、質問自体がshouldn’t I ~?というように否定文ですから、noという答えは、その内容自体を否定していることになります。つまり、「着ないほうがよいでしょうか」という問いに対しては、「着ないべきだ」といっていることになります。

内容的にはこれでいいのですが、「着ないほうがよいでしょうか」というところを、より日常会話的な表現に直してみましょう。

宮崎訳::Q「はじめて採用面接を受けることになりました。カジュアルな雰囲気の会社ですが、あまり派手な服は控えたほうがいいでしょうか?」

A「控えるべきです。カーキーと明るい青のシャツを着るべきです」

上のように「着ない」という言葉を「控える」という言葉に置き換えると、今度は肯定文の質問に対して肯定して答えるという形になります。しかし、日本語としてはこのように訳したほうが自然な感じがします。

今回は、YesとNoの訳しかたを考えてみました。質問されたときの答えが、英語と日本語ではYesとNoが逆になることに気をつけなければならないこと、そして場合によっては、日本語として自然な文章になるように質問自体を変えることも検討すべきであることをお話ししました。

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Written by

記事を書いた人

宮崎 伸治

大学職員、英会話講師、産業翻訳家を経て、文筆家・出版翻訳家に。産業翻訳家としてはマニュアル、レポート、契約書、パンフレット、新聞記事、ビジネスレター、プレゼン資料等の和訳・英訳に携わる。
出版翻訳家としてはビジネス書、自己啓発書、伝記、心理学書、詩集等の和訳に携わる。
著訳書は60冊にのぼる。著書としての代表作に『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』(三五館シンシャ)が、訳書としての代表作に『7つの習慣 最優先事項』(キングベアー出版)がある。
青山学院大学国際政治経済学部卒業、英シェフィールド大学大学院言語学研究科修士課程修了、金沢工業大学大学院工学研究科修士課程修了、慶應義塾大学文学部卒業、英ロンドン大学哲学部卒業および神学部サーティフィケート課程修了、日本大学法学部および商学部卒業。

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