TRANSLATION

婉曲表現のご紹介(7)「ウソ・ホラ・作り話」

宮崎 伸治

出版翻訳家による和訳レッスン

今回は和訳レッスンを一休みし、「ウソ・ホラ・作り話」に関する婉曲表現をご紹介します。ぜひ肩の力を抜いてお読みください。

私たちが何か話すとき、常に真実を口にしているというわけではありません。真実をねじ曲げるとき、その方法は大別して2つあります。1つは大げさに話すこと、もう1つは割り引いて話すことです。

英語でも大げさに話したり、割り引いて話したりすることがあります。今回はそんな婉曲表現を見てみましょう。

○fib
「ウソ」といえば、lieという英単語を思い浮かべる人が多いと思いますが、lie は日本語の「ウソ」より遙かに露骨で相手の人格を非難する口調の強い言葉です。昔は、lie とか liar という言葉を使われた場合、決闘を申し込むほどだったとも言われています。

実際、私は同僚のオーストラリア人が、ある日本人から “You are a liar.”と言われたとき、血相を変えて怒りだしたのを目の当たりにしたことがあります。そう言った日本人は、「冗談だろう?」といった軽いニュアンスで「ウソだろう?」と訊いたつもりだったようです。しかしそれならそれで You must be joking. とか、Are you sure of that?などと言うべきでした。というのも lie とか liar というのは非常にネガティブなニュアンスをもつ言葉だからです。

「ウソ」を強調したい場合であっても、lieを使うのは危険すぎるので、lie の代わりに untruth や falsehood を使ったほうが無難です。

一方、fibというのは、「たわいのないウソ」「罪のないウソ」のことを指します。こちらのほうはlieやliarを使うより安全ですね。私たちが友人に言うときの「ウソつくなよ」を英語で言うとすれば、Don’t tell fibs. くらいがいいかもしれません。

ちなみに、この単語は fible-fable が短縮された形といわれていますが、この言葉自体、fable(寓話、作り話)をおかしく言い換えたものです。

○story
storyは「物語」「小説」「記事」「報告」という意味のある英単語ですが、17世紀からlieの婉曲表現として「ウソ」とか「作り話」という意味でも使われるようになりました。

make up a story とか invent a storyで「根も葉もない話をでっちあげる」という意味になります。

○white lie
先ほど説明したとおり、lieは非常にネガティブな言葉ですが、これに white を付けて white lie と言えば、(人の気持ちを傷つけまいとして言う)「罪のないウソ」という意味になります。また同じ意味で social lie とも言います。

逆に、「悪意あるウソ」は black lie ともいいます。lie だけでも相当ネガティブな言葉ですので、black lie などと言うのは危険すぎますね。

○whopper
18世紀から「とてつもないホラ」を意味する言葉として使われるようになりましたが、現在では、逆に「小さなこととして話すウソ」にも使われるようになっています。

○terminological inexactitude
terminological は「用語上の」、inexactitude は「不正確」という意味の言葉で、直訳すれば、「用語上の不正確」となります。これは1906年にウィンストンチャーチルが使った表現ですが、その後、lieの婉曲表現として使われるようになりました。

○economy of truth
economicalは「経済的な」「節約する」という意味の単語ですが、婉曲的に「(情報を)故意に出ししぶって」という意味もあります。economy of truth を直訳すれば「真実を故意に出ししぶって」となりますが、これで「ウソ」を遠回しに言ったことになります。

○creative, imaginative
creativeは「創造力のある」という意味の言葉ですが、「(必ずしもウソをつく意図がなくても)想像力が豊かであるがゆえに大きなことを言う」意味の婉曲表現として使われることがあります。

imaginative も creative とほとんど同じニュアンスで使われます。ただし、通常は新聞記事について述べるときに使われます。例えば、imaginative reporting とか imaginative journalismといった具合です。

○gild, embroider
人間はときとして自分のことを良く見せようとするものです。ウソはウソでも自分のことを良く見せようとするときに使われる単語があります。例えば、gild です。gildは「金メッキをする」という意味ですが、「~をよく見せる」「~を明るく魅力的に見せる」という意味でも使われます。gild the truth といえば、「真実をねじまげる」という意味になり、「ウソをつく」ことを婉曲的に表現したことになります。

その点、embroider も gild と似ています。embroider は「刺繍する」という意味ですが、「誇張する」という意味でも使われます。embroider the truth で「事実を誇張する」という意味になり、「ウソをつく」ことを婉曲的に表現したことになります。

○misspeak
misspeak は「言い間違える」という意味の単語ですが、婉曲的に「ウソをつく」という意味でも使われることがあります。

○speak with forked tongue
ちょっと変わった言い方ですが、「ウソをつく」の婉曲表現として speak with forked tongue が使われることがあります。

私の同僚のオーストラリア人が  liar と言われて血相を変えて怒りだしたように、ちょっとした言葉の使いかたで人間関係がギクシャクするものです。気をつけましょう。

次回はまた和訳レッスンに戻ります。

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記事を書いた人

宮崎 伸治

大学職員、英会話講師、産業翻訳家を経て、文筆家・出版翻訳家に。産業翻訳家としてはマニュアル、レポート、契約書、パンフレット、新聞記事、ビジネスレター、プレゼン資料等の和訳・英訳に携わる。
出版翻訳家としてはビジネス書、自己啓発書、伝記、心理学書、詩集等の和訳に携わる。
著訳書は60冊にのぼる。著書としての代表作に『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』(三五館シンシャ)が、訳書としての代表作に『7つの習慣 最優先事項』(キングベアー出版)がある。
青山学院大学国際政治経済学部卒業、英シェフィールド大学大学院言語学研究科修士課程修了、金沢工業大学大学院工学研究科修士課程修了、慶應義塾大学文学部卒業、英ロンドン大学哲学部卒業および神学部サーティフィケート課程修了、日本大学法学部および商学部卒業。

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