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タイトルつけという作業

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通訳・翻訳者リレーブログ

先日ある方に頼まれて、20本程の作品名の英タイトルつけ…という仕事に取り組みました。この時は、“直訳で”…というご希望だったので、美しい英語を心掛けつつ、そっくりそのまま移し替えることに徹しました。

この“タイトルつけ”、時々やっていて、とても好きな作業のひとつです。
邦題に英題をつけたり、英題を邦題にする場合もあれば、ゼロから邦題や英題を捻り出す場合もあります。
また直訳の場合もあれば、意訳の場合もあります。その時々の先方の希望や売り方によりけり、色々アリです。

タイトルというのは、それそのものがひとつの“作品世界”として成立しています。小説であれば、そこからもう物語は始まっていますし、アルバムの場合も、そこから既に音が流れています。
ですからとても気を使う、とても繊細な作業になります。

アルバムでも本でも“ジャケ買い”、つまり表の装飾やタイトルのインパクトや第一印象で、取り敢えず買ってみようか…と思う消費者が多いので、そこに載せるタイトルは、とにかく人々の目を引くような、個性的なものでなければなりません。

つける上での、やり方や決めごとは特にありませんが、忘れてはならないのが、そのアーティスト&作品に寄り添うものであること。時には、“そこまでやっちゃうか?”…というような内容にする場合もあります。
そうして基本的には(“そこまでやっちゃうかケース”…でない限り)、私の場合は、例えば3単語から成るものでしたら、出来るだけそのまま、3単語で納まる表現を心掛けます。

思えば、編集部在籍当時から、この作業が大好きでした。
本のタイトル、副題、大見出し、中見出し、小見出し、写真キャプション。帯たたき、ウリ文句、決め文句……。
その当時も今も、とにかく何処へ行くにも、メモ帳&ボールペン持参で、“これだ!”と思うようなタイトルやフレーズを思いついたら、その場でどんどん書き出していきます。それが結局、10本ほどで納まる場合もあれば、100本近く溜まってしまう場合もあります。
そうしてその中から、ダメだと思うものから消去していったり、手直しをした後に、何日か寝かせ発酵させ、最終的に数個に絞り込み、そうしてその中から決定します。編集部に居た当時は、最終段階で編集会議を開いて貰い、みんなの意見を聞くこともしていました。

小説には、とても印象的な邦題が多いですよね。
有名どころでは、『WUTHERING HEIGHTS』→『嵐が丘』(Eブロンテ)、『ANN OF GREEN GABLES』→『赤毛のアン』(L.M.モンゴメリー)、『FOR WHOM THE BELL TOLLS』→『誰(た)がために鐘は鳴る』(Eヘミングウェイ)、『GONE WITH THE WIND』→『風と共に去りぬ』(Mミッチェル)、『LITTLE WOMEN』→『若草物語』(L.M.オルコット)、『THE CATCHER IN THE RYE』→『ライ麦畑でつかまえて』(J.D.サリンジャー)、『TENDER IS THE NIGHT』→『夜はやさし』(F.S.フィッツジェラルド)、『TO KILL A MOCKINGBIRD』→『アラバマ物語』(Hリー)など。

映画の邦題にも、唸るようなものがあります。特に昔の作品は凄い!
すぐに思い出すのは、『A STREETCAR NAMED DESIRE』→『欲望という名の電車』、『ALL QUIET ON THE WESTERN FRONT』→『西部戦線異状なし』、『A PLACE IN THE SUN』→『陽のあたる場所』、『AN OFFICER AND A GENTLEMAN』→『愛と青春の旅立ち』、『BONNIE AND CLYDE』→『俺たちに明日はない』、『BUTCH CASSIDY AND THE SUNDANCE KID』→『明日に向かって撃て!』、『CLOSE ENCOUNTERS OF THE THIRD KIND』→『未知との遭遇』、『FROM HERE TO ETERNITY』→『地上(ここ)より永遠(とわ)に』、『HIGH NOON』→『真昼の決闘』、『SINGIN’ IN THE RAIN』→『雨に唄えば』、『WATERLOO BRIDGE』→『哀愁』など。

おまけとして、『THREE AMIGOS!』→『サボテン・ブラザーズ』。これ最高!
余談ですが、先日アカデミー賞を受賞した『おくりびと』→『DEPARTURES』。これは、うーん、どうなのでしょう…。

そうして私の専門分野である“音楽”。アルバム&シングル・タイトル。
近年では、映画の世界同様、“国民が英語慣れしてきた、アレルギーを感じなくなった”という理由もあり、そのままカタカナ表記される場合が多くなっています。しかしひと昔前までは、唸るような名訳や迷訳が、ワンサカありました。
特に目立っていたのが、我がハードロック&ヘヴィメタル系。断然、付け甲斐&いじり甲斐がありますから…。
例えば、AC/DC。 「Rock ‘N Roll Train」→「暴走/列車」、『DIRTY DEEDS DONE DIRT CHEAP』→『悪事と地獄』、『LET THERE BE ROCK』→『ロック魂』、『IF YOU WANT BLOOD YOU’VE GOT IT』→『ギター殺人事件』、『FOR THOSE ABOUT TO ROCK (WE SALUTE YOU)』→『悪魔の招待状』、『FLICK OF THE SWITCH』→『征服者』、最新作『BLACK ICE』→『悪魔のかき氷』(久々に出たな、そこまでやるか邦題!)。
エアロスミス。 『AEROSMITH』→『野獣生誕』、『TRAIN KEPT A ROLLIN’』→『ブギウギ列車夜行便』、『GET YOUR WINGS』→『飛べ!エアロスミス』、『TOYS IN THE ATTIC』→『闇夜のヘヴィ・ロック』、『ROCK IN A HARD PLACE』→『美獣乱舞』。
アイアン・メイデン。 『IRON MAIDEN』→『鋼鉄の処女』、『THE NUMBER OF THE BEAST』→『魔力の刻印』、『PEACE OF MIND』→『頭脳改革』、『DANCE OF DEATH』→『死の舞踏』。
ジューダス・プリースト。 『SAD WINGS OF DESTINY』→『運命の翼』、『SIN AFTER SIN』→『背信の門』、『DEFENDERS OF THE FAITH』→『背徳の掟』。
キッス。 『KISS』→『地獄からの使者』、『HOTTER THAN HELL』→『地獄のさけび』、『DRESSED TO KILL』→『地獄への接吻』、『DESTROYER』→『地獄の軍団』、『ROCK AND ROLL OVER』→『地獄のロックファイアー』、『DYNASTY』→『地獄からの脱出』、『LICK IT UP』→『地獄の回想』。
ヴァン・ヘイレン。 『VAN HALEN』→『炎の導火線』、『VAN HALEN II』→『伝説の爆撃機』、『WOMEN AND CHILDREN FIRST』→『暗黒の掟』、『FAIR WARNING』→『戒厳令』。

もう書いていて、疲れました!(笑) でも、それぞれのバンドの特徴を上手く捉えた(?)、絶妙な邦題ばかりです。

この世界で働くようになり、その当時の担当ディレクターと御対面し、“あぁ、あなたがあの時のあのブラボーな名訳を付けたのね!”…と、ちょっとニンマリ嬉しいand/or恥ずかしい瞬間が、何度かありました〜。

さて、ここで口直しに(?)、とてもホッとする美しい例も…。
ゲイリー・ムーアの名曲「Parisienne Walkways」。邦題は「パリの散歩道」。“まんま”なのですが、その美しい旋律同様に、絵が目に浮かぶ、とても素敵なタイトルです。
原題がキレイなのに、直訳した邦題がなぜかイマイチ…と言うことも多々ありますが、これは完璧ですね。

ポップ系、有名どころにも、“お見事!”と叫びたくなるようなものが、たくさんあります。
例えば、「Bridge Over Troubled Water」→「明日に架ける橋」(サイモン&ガーファンクル)、「Can’t Help Falling In Love」→「好きにならずにいられない」(エリヴィス・プレスリー)、「I Left My Heart In San Francisco」→「霧のサンフランシスコ」(トニー・ベネット)、「Killing Me Softly With His Song」→「やさしく歌って」(ロバータ・フラック)、「Raindrops Keep Fallin’ On My Head」→「雨にぬれても」(B.J.トーマス/カーペンターズ)などなど。

先日取り上げたパートリッジ・ファミリー&デヴィッド・キャシディーも、とても面白い。
「I Think I Love You」→「悲しき初恋」、「Could It Be Forever」→「恋するデビッド」、「I Woke Up In Love This Morning」→「夢見るデビッド」、「One Night Stand」→「悲しきデビット」。
うーん、当時の担当ディレクターさん、そうとう拘っていたのですね。まぁ、そういう時代でもあったのでしょう…。
因みに現在では、Davidのカタカナ表記は、一般に「デヴィッド」で統一されています。

逆に、デビー・ブーンの大ヒット曲「You Light Up My Heart」。
南米に居た頃、みんなでよく歌っていましたが、これは“神様が私の人生に光を点してくれた”という、とても神聖で厳かな歌なので、邦題の「恋するデビー」は、うーん、ちょっと……。

最近関わったアルバムで、特に印象に残っているのは、エンヤの最新作。原題は『AND WINTER CAME…』。邦題は『雪と氷の旋律』。これ、そのままカタカナ表記では色気がないし、「そうして冬がやってきた…」と直訳しては、“絵的な”美しさにもインパクトにも、ちょっと欠けますよね。
そうして同作1stシングル、原題は「Dreams Are More Precious」。邦題は「ありふれた奇跡」(同名TV連ドラ現在絶賛放映中)。
アルバム&シングル共に、作品の内容&曲調に寄り添った美しい邦題で、とても気に入っています。

余談ですが、最近の音楽雑誌の記事では、そのまま原題を記すだけという場合が多くなっています。
ただしインタビュー時には、原題も邦題も把握していないと、訳す立場にある場合には、戸惑ってしまう瞬間が多々あるので、注意しなければなりません。

そうそう、話がグーッと逸れてしまいますが、“りんごの想い”…という、とても可愛らしい名前もありましたっけ。いえいえ、これアルバムでも小説でもなく、先日の東北旅行中に見つけた、りんごを使ったお菓子の名前なのですが…。
これを英訳したら、どうなるだろう?? しばらくその場に佇んでしまった私は、もう完璧、職業病であります。

そうしていま、早春リリース予定の人気女性シンガー最新作に、取り掛かっているのですが、こちらに関しても、これからあれこれ“仕込み”をしなければなりません。
最近ではプライベートの時間にも、繰り返しこのアルバムばかり聴いているほど、物凄く素敵な作品。“絶対に大ヒットする!”と確信しています。本当に、ひとりでも多くの人に聴いて欲しい、その素晴らしさを知って欲しい。その為に、これからレコード会社担当ディレクターと一緒に、タイトルつけや歌詞対訳の面で、あれこれ“画策”することになっています。
この頭をフル回転させ、うんと集中し、そうしてこころを込めて…。

あぁ、ワクワウするほどに楽しいゾ、タイトルつけというこの作業は!

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記事を書いた人

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高校までをカナダと南米で過ごす。現在は、言葉を使いながら音楽や芸術家の魅力を世に広める作業に従事。好物:旅、瞑想、東野圭吾、Jデップ、メインクーン、チェリー・パイ+バニラ・アイス。

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