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空気が・・・

ガットパルド(gattopardo)

通訳・翻訳者リレーブログ

ほんとうに「春だなあ・・・」というか、なまぬるく、あまくやさしくさわやかに、とくに夕方なんか、ちょっとたまんないですね。
電車に乗って家から都心にむかうあいだじゅう、車窓から見える景色のあちこちに、桜の木。ああ、ここにもあったの、あそこにもあったの、と、視界の「ピンク度数」が40パーセントぐらい上がる季節。でもそれも、せいぜいあと2〜3日かな、東京では。
なんかね〜、妙に色っぽい気分になるのですよね。平安時代の絵屏風なんかに、牛車に乗って貴族が夜遊びにいく背景に、桜の枝の満開の図が描かれていたりするの、なんとなく、納得。
・・・って、それと関連があるかどうかわかりませんが、先日、わたくしめも、着物を着てみたのです。
某オペラの仕事に関わること2週間。やっとその本番の幕が開き、ガットパルドさんお仕事お疲れさまでした、ご招待しますのでどうぞ今日はご鑑賞を、と劇場が言って下さり、それでは、と、めかしこんでみた次第。
思えばもう20年も前に作った訪問着、紺地に深紅の椿の花を散らした柄に、エンジの名古屋帯。しかし、今日までに着た回数、わずか数回。こりゃ、死ぬまでにあと何回着るかしら?せいぜいまた数回?そんな、もったいない!ということに昨年あたり気がついて、即席大和撫子と化し、以来、ことあるごとに着ているのです。
とろあえず格好にする、というだけなら、自分で着られるんだけど、出かける前、十分時間がある日だったので、せっかくだからチャンとプロにコツを学ぼうと、わが家のとなりの美容院で着付けてもらった。
さすが日本が世界に誇る「キモノ」、細部の着付け技の解説を聞きながら、また目で見て学びながら着てみると、いやはや奥が深い。どうすれば背中心がバシッとキマルか、どうすれば帯がいちばんかっこうよく、かつ、苦しくなく結べるか、どうすれば襟元がだらしなくならずにすむか、など、ひとりでうろ覚えの知識で着ていた時とは大違い、あるあるある、裏ワザの数々。それも、知らなければなかなか思いつかない、「え〜〜? ここをキメルために、こんなところを予め細工しておくわけ?? へえ〜〜〜!」というような。
そうやって着付けて、仕上がりを大鏡に映してみると、なるほど、どこかが、あきらかに、違う。一本スジが通ってる感じ、というのか、洗練された感じが、自分で着る時より一段上。なるほど、これがプロのワザ。
通訳もね、学校でたての、成績自体はすごく優秀な通訳さんが、言葉そのものは正確に好感度高く訳せても、いざその訳文全体を俯瞰した時に、「う〜〜む、味がある。」とか、「う〜〜む、スッキリしてる。」とかいう印象までは、なかなか出せないのと同じことかもね。はやく洗練の言語操作にまで辿り着きたいものですが、いやはやなかなか、年季と根気と、最後はやはり「好きこそものの上手なれ」ですかね、必要なのは。
たしか「徒然草」だった記憶があるけど「上手(じょうず)の位(くらい)に至りて、並び無き名を得ん。」という一節があった。そこまでになれれば本望ですね。
・・・などと、身の程知らずに浮かれた頭でオペラ鑑賞し、終了後はスタッフの慰労会で深夜まで結局通訳し、都心にてホテル泊。
翌朝は自力で着付けて帰路についたのですが、ねぼけまなこで、しかも部屋に全身大の鏡がなかったものだから、電車に乗ってから長襦袢のすそが下からはみ出ているのに気づき、駅のトイレであわてて安全ピンで留めて帰路続行したわけです。
なにが「上手の位」ですかねえ〜〜。
吉田兼好の笑い声が耳にこだまいたしました、大和の春の早朝なり。

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ガットパルド(gattopardo)

伊・仏・英語通翻訳、ナレーション、講師など、幅広い分野において活動中のパワフルウーマン。著書も多数。毎年バカンスはヨーロッパで!

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